最終話 歪な幸せ

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最終話 歪な幸せ

 「相次いでいる集団記憶喪失事件の犯人としてVRMMO【Elysion】の開発者であるーーーが逮捕されました」  テレビの音で目が覚める。  夢を見ていた。  とっても幸せな夢。  覚めないで欲しいと願っていたと思うんだけど…内容は全く思い出せない。  ここは何処で、私が誰かすら分からない。  とりあえず身体を起こそうとするも、身動きが取れない。  「痛っ…なにこれ…?」  腕に違和感を覚えたので確認してみると、なぜか私の手には手錠が掛けられており、ベッドに固定されている。  よく見ると、この部屋の壁一面に私と思われる人物の写真が貼られている。  恐怖を覚え、身をよじるが手錠は外れない。  そうしている内に、ドアが開く音に気がついた。  「かごめちゃん…!目を覚ましたんだね。良かったぁ…」  中から出てきたのはとても可愛らしい少女だった。  見覚えがあるような気もするが、思い出せない。  「あの…かごめちゃんというのは私の名前でしょうか…?それに、あなたは誰ですか?この手錠はなんなんですか?」  恐る恐る尋ねてみる。  「あはは、そんな焦って質問しなくても時間はたっぷりあるんだから大丈夫だよ。そりゃ忘れてるよね。かごめちゃんはあなたの名前で、私はあなたの恋人である三神彩!手錠はもうかごめちゃんが何処にも行かないようにするためのものだよ。全く…あれからゲームがクリアされるまで大変だったんだから」  三神彩と名乗る少女は嬉しそうに私の問いに答える。  やはりかごめは私の名前のようだ。  私とこの子が恋人関係…?  分からない。思い出したいのに、思い出せない。  ゲーム…?何を言ってるのかよく分からない。  それに  「こ、恋人同士なら手錠を繋ぐなんておかしいじゃないですか!これを外してください!」  私は意を決して彼女にそう伝えるが…  「何言ってるの?大事な人はいつ居なくなるか分かんないんだから閉じ込めておかなきゃだめだよ。…全部かごめちゃんが私に教えてくれたんだよ?」  「く、狂ってます!意味が分かりません!」  「ふふ、だとしても私を狂わせたのはかごめちゃんなんだから…責任取らなきゃ。」  言ってることが何一つ理解できない。  ただ、彼女の顔を見てると懐かしさと愛おしさが込み上げてくる。  恋人同士だというのは本当なのだろう。  だとしたら、全く思い出せないけど本当に私が彼女を狂わせたんだろうか…?  「責任って…どうすれば良いんですか?」  「かごめちゃんは何も考えなくて良いんだよ。私をただいまって出迎えてくれるだけで、そこに居てくれるだけで私は幸せなんだから!大丈夫。ご飯も食べさせて上げるし、お風呂も入れてあげるから」  彼女は恍惚とした笑みでそう答える。  私は明らかにおかしい彼女の発言に懐かしさが込み上げる。  そしてなぜだろう…怖いはずなのに、満たされている。  私は…とても幸せだ。
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