絶望のパーシヴァル

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 ***  人は、真実を求める生き物だという。それは間違ってはいないが、正しくもないとパーシヴァルは思うのだ。正確に言うならば人というものは、“自分にとって都合の良い真実”を求める生き物だと知っているからである。  そう、まさに自分自身がそうだったように。  パーシヴァルにとって帰り道の確保ができたことは、本来とても喜ばしい事実のはずだった。神々は寛容に笑って、自分達の装置を使って元の世界に簡単に帰れるよと教えてくれたからである。神の国の科学技術は、自分達の世界とはくらべものにならないほど進化したものだった。パーシヴァルが出発したその日のその時間、その直後に時間軸を調整してワープすることができる。それは、こちら側のゲートにはなかった素晴らしい技術だろう。  しかし。 ――ああ、あああ……!どうすればいい、皆に、どんな顔をして会えばいいのだ……!  パーシヴァルは今、その装置の前で頭を抱えている。目の前には、家に帰るための方法が存在しているのに。けして難しくもなければ、危険でもない技術だというのに。  それは、知ってしまった真実が、予想していたそれとはあまりにもかけ離れたものだったせいだ。  自分達にとって最も都合の良い真実とは、“神々が怒りによって我々の世界に天罰を下したが、己の説得で怒りを収めて世界の平穏を約束してくれた”というもの。あるいは“怒りを収める方法を教えてくれて、己を元の世界に帰してくれた、その方法は世界にとってけして難しいものではなかった”というものであってもいい。むしろ、それ以外の真実など求めていなかったとでも言えばいいだろうか。  しかし、神の国に辿りついてパーシヴァルが神々に聴いてしまった真実は、そのようなものではなくて。 『え?私たち、別に怒ってなんかないわよ?』  美しい女神のような姿をした神々のリーダーは、子供のように無邪気な顔でこう言い放ったのだ。 『ただ、あんまりにも平和すぎる世界に飽きちゃったから、ちょっとずつ壊して遊んでみようかなって思って。ほら、災害を一つ起こすと、人間達ってみんな慌てふためいてどうにかしようと必死で頑張るでしょ?その姿を見るのが凄く面白くてさ。え、やめてほしいの?そんなこと言われても、せっかく見つけた暇つぶしをやめろと言われても困るわー』  ああ。神が怒りで天罰を下したならば、どれほど自分達は救われただろう。  実際はただの退屈しのぎ、面白半分だっただなんて。このような真実、一体誰が知って救われるのか。仮に自分がもう少し粘って説得して一時的に“遊び”をやめてもらったところで、根本的な解決になどまったくならない。また退屈して来たら、同じ行為を気まぐれに繰り返すのが目に見えているのだから。 ――ああ、ああ!誰が教えてくれ、我々とは何だ、何のために生まれた!神の、玩具になる運命を受け入れろとでもいうのか……!  パーシヴァルは絶望に沈む。  どんなに嘆いても――真実を知らなかった自分に、戻ることはできないのだから。
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