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「ここで赤ちゃんとママを守って山の上まで連れていけたら、君はヒーローだ。めちゃくちゃかっこいいぞ。泣かないで頑張れるよな?」
「……う、うん。うん!」
彼の手には、小さな戦隊ヒーローの人形が握られていた。ヒーローになれる、と言われて憧れを思い出したのだろう。彼は目元を乱暴に拭うと、何度も頷いた。
「強い子だ。……さあ、行って!」
親子を送り出し、パーシヴァルは再び誘導へと戻る。ちらりと時計を見た。思ったよりも住人達の非難に時間がかかっている。できれば全員を避難させたあとで、取り残されている人間がいないか消防団と一緒に町中を回って確認したかったが――残念ながら、そんな時間はなさそうだ。
町のすぐ近く、オクラマ火山が噴火した。灼熱のマグマが、もう町のすぐ傍まで迫っている。できることは一刻も早く、住人達をマグマが来ない別の山の上まで避難させることだけだった。
――神の怒り、か。くそったれ!
一体どうしてこうなったんだ、と思わずにはいられなかった。オクラマ火山は死火山だったはず。念のため毎年政府が調査を行っていたが、一切その活動は確認されてこなかった。それが急に、あんな大量のマグマを噴出して大噴火するなんて、一体ぜんたいどうなっているのだろう。
今まで自分達が積み上げてきた多くの知識が、ほとんど役に立たないような事態が次から次へと起きている。
突然大陸に大量の雨が降り、洪水と土砂災害が頻発した。
本来全く想定されていない内陸の王都まで、地震による津波が押し寄せてきた。
局所的な巨大地震で、一晩にして町一つがあった場所に大きな穴があいて全てが飲み込まれた。
到底火の気があるはずもない雨季の熱帯雨林で山火事が発生し、集落が次々と炎の飲み込まれて甚大な被害が出た。
しまいには謎の奇病が発生し、島国が二つばかり同時に壊滅するなんて事態も起きている。どれもこれも今まで想像もつかなかったような惨劇ばかり。いったいこの一年だけで、どれほど多くの人が家を、命を失ったことだろうか。
――なんとかしなければ。
今にも雨が降りそうな空を見上げて、パーシヴァルが思った。
――私がなんとかするんだ。家族を、世界を守る為に!
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