絶望のパーシヴァル

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 ***  勿論、そんなものが簡単であるはずがない。  この世界を作った神という名の新人類が存在することも、次元の狭間の神の国の座標も全て判明はしている。次元を移動する方法も、理論上はわかっている。だが、それを作ることは非常に困難極まることだった。まず第一に、次元移動をするためには世界の壁に穴を空けなければならない。しかし、その穴を明けるためには莫大なエネルギーが必要な上、穴を放置すれば次元の壁がそのまま崩れて世界そのものの崩壊を招く危険があるのである。勿論、渡った向こう側の世界の壁にも穴を安全に開ける必要が出てくるだろう。  さらに、目的とした座標に正確に、かつ安全に辿りつけるようにするにはどうすればいいか。世界と世界の間にレールのようなものを通せれば簡単だが、世界の壁に穴をあける段階で四苦八苦しているのに、レールまでともなると到底現実的ではない。もっと言えば、世界というものは次元の狭間で漂う風船のようなもの。座標は変わらないが、ようするに座標の軸が常に広がったり縮まったりしているような状態なのである。距離が一定でないものに、壊れない橋をかけるなどできるはずもないのである。 「ならば、船や橋で“線”を繋ぐのではなく、門で点と点を結ぶやり方を考えるしかあるまい」  この時点で、半年。これ以上試行錯誤している暇はない。こうしている間にも天災は続き、人類は災害とパニックによる戦争、暴動で数を減らし続けているのだ。 「ワープ技術を確立させよう。あれが、最後の頼みの綱だ……!」  最終的に、この判断が正解だった。空間に穴を明けるのではなく、特定の質量そのものをワープで入れ替える技術をさらに二年かけて確立させることに成功したのである。神の国側にも似たようなゲートがあると、次元望遠鏡による調査でわかったのも大きい。他の次元に行くならばともかく、神の国に人一人分を送り込むことまではなんとかできそうである。  問題は、現在の技術では一方通行の転送しかできないということ。神の国側に帰還装置がなければ――向かった人間は、そのまま帰ってくることはできなくなってしまうだろう。 「私が行こう」  しかし、パーシヴァルに迷いはなかった。自分が行くと、装置完成と同時に自ら手を挙げたのである。 「私の持つ知識や技術は、全て君達に教えてきたはずだ。あとはもう、私がいなくなっても君達の力で対処できるはず。私が必ずや神々を説得し、怒りを収めてみせると約束しよう!」 「し、しかし教授にはご家族が……!」 「わかっている。しかし家族がいるのは皆同じだ。誰かがやらねばならないことならば私がやる。その、愛する家族を守る為にな」  パーシヴァルの言葉に、年下の助手や助教授たちは涙を流して頷いたのだった。彼等がいれば、きっとこれから先も技術を進化させ続けることができよう。それこそ、この世界の外に人々を避難させる方法もいつか見つかるかもしれない。  愛する妻と子の顔を思い浮かべながらも、パーシヴァルは単身ゲートを潜ったのだった。出来ることならば帰り道があればいい、そう心の隅で願いながらも。
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