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空手部
階段下では背の低い男、色黒の男、茶髪の男、黒髪パーマの男が話をしている。
やっぱり、黒髪パーマの男が出て来ているな。よし、思い切って会話に入ってみよう。
「すみません、皆さんは知り合いなんですか?」
「……」
4人は顔を見合わせるが誰も答えてくれない。
「いや、俺もあまり身元がバレるような話は避けてくれって言われてるんですけどね」
俺は普段明るく話すタイプでは無い。だけど、話しやすそうな雰囲気を演じた。
「ああ、同じ大学なんだ」
黒髪パーマの男が答えてくれた。
「へぇ~、全員大学生なんですね」
「あんたも大学生か?」
「いえ、俺は高3です」
「高3? 見えないな。どこなんだ?」
「いや、その辺は……言うなって言われてますので……」
「まあ、いいや。それより、あんたはスパイダーマンに勝ったのか?」
「勝った?」
「スパイダーマンの覆面をした試験官が殴り掛かってきただろ?」
「?! いえ……スパイダーマンの試験官には会いましたけど、闘っては無いです」
サングラスとマスク越しだけど、全員が驚いたような感じに見えた。黒髪パーマが続けて話す。
「闘って無いのか?」
「ええ、闘わずに合格と言われました」
4人は顔を見合わせる。
「あんた、格闘技は何をしてるんだ?」
「えと……柔道です」
「そうか……空手じゃ無いのか」
「と言う事は、皆さんは空手を?」
「ああ」
「空手ってフェイスガードしますよね?」
「いや、ヘッドギアをするのは高校生までで、俺達は大学生だからヘッドギアはしないんだ」
「そうなんですね。じゃあ……あっ! まさか、スパイダーマンに?」
「ああ。ボコボコにされたよ」
「えっ?! 軽い実戦テストって聞いていましたけど、そんなに殴られるんですか?!」
「ああ、俺達も意味が分からないんだ。参ったと言ってるのに止めない奴だった」
「無茶苦茶ですね……。俺は何で闘わなくて良かったんですかね?」
「柔道だからだろ?」
「スパイダーマンは俺が柔道をやってるって知ってたんですかね?」
「まあ、連絡入ってるんじゃないか?」
「そうなんですかね……。すいません、じゃあ俺は部屋に戻ります」
俺は会釈をして2階へ上がる。疑問に思いながら、部屋へ戻り、ベッドに横たわった。
今日は変な事が色々あるな。スパイダーマンの件もそうだけど、まさか執事さんが王の兄貴とはなあ。やっぱり諭吉を持ってる奴が偉いのか……。諭吉先生~! 全然平等じゃないですよ~!
◆誰もが知る福沢諭吉は明治初頭、300万部という爆発的に売れた本の著者で、その冒頭部分、『天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず』という名言が有名になっている。だが、この部分だけが1人歩きして、永遠の理解しているように、人間って皆平等だよ~と言う、どこかの胡散臭い教祖が言うような言葉だと誤解されている人がほとんどだろうが、福沢諭吉が伝えたかった事はそういう事では無い。
産まれた時は皆平等なのに、大人になると、どうして人の上に居る者と下に居る者に分かれるのかと読者に問うているのだ。
福沢諭吉の答えは、勉強をした者としていない者だと言う。極めて簡単に説明しているので語弊があるかも知れないが、要するに、福沢諭吉は人間皆平等と言う事が言いたかったのでは無く、勉強しないと駄目だよと言う事が伝えたかったのだ。だから本のタイトルが『学問のすすめ』なのである。
永遠は勉強をしてこなかったので、人の上に立つ事は出来なさそうだ。◆
ふとスマホを見ると、山田さんから返信が入っていた。
『空手部だよ。言わなかったか?』
俺は返信を送る。
『そう言えば聞いてました。すみません。山田さんの知り合い達、テストで落とされてるかもしれませんよ。試験官にボコボコに殴られたみたいです』
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