塩見のタロット占い

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塩見のタロット占い

俺が部屋へ戻ると、スマホに塩見からの着信履歴があった。塩見はチームのムードメーカーとしては1流だけど、2人で話すと意外としんどいと感じる事がある。もちろん良い奴なのは間違い無いんだけど、こちらの気分次第では鬱陶しいと思ってしまう。だけど、今は問題無い。とにかく暇なのだから。こういう時に塩見はうってつけだった。俺は直ぐに塩見へ電話をした。 「もしもし、時雨か?」 「どうした塩見? 何かあったのか?」 「ああ、俺がタロット占いに()まっているのは知っているよな?」 「いや、知らね~よ! 聞いてね~し!」 「言ったよ!」 「いつだよ?!」 「今言ったじゃないか!」 とまあ、少し相手をするのがしんどい時もあるが、今なら問題無い。今、俺はとても暇だ。余裕で相手が出来る。 「で? そのタロット占いがどうかしたのか?」 「時雨の事を占っていたら、不吉なカードが出たんだよ」 「頼んで無いのに勝手に占うなよ」 「まあまあ」 「それで?」 「いきなり死神のカードが出たんだよ」 「まあ、出る事もあるわな。タロットの事は全く知らないけど、何か悪そうなカードだな」 「実際悪いんだよ。これから不吉な事が起こりそうな場所に行って無いか?」 「おっ! やるじゃないか。ちょっと当たっているよ」 「その次に出たカードは皇帝なんだ。信頼できる人から連絡とかあったか?」 「信頼できる人?」 「例えば先生とか?」 「いや、無いな」 「尊敬している人とか?」 「尊敬している人ねえ……あっ! 先輩!」 「それだ!」 「塩見やるじゃないか!」 俺は暇なので塩見を担いでいる。簡単に言えば、凄いと思っているフリをしているんだ。今のところ、塩見の占いは大した事を当てていない。誰にでも当てはまる事を言っているだけだ。それを俺が強引に当たっているかのように誘導している。 ◆心理学用語に『バーナム効果』と言うものがある。主に占いで使われる手法で、誰にでも当てはまる事を言って、占いが当たっていると思わせるのだ。例えば、血液型占いで言うと、A 型の人に対して、「あなたは几帳面で綺麗好きですね?」と言うと「当たってる~!」となるのだが、O 型であろうと B 型であろうと AB 型であろうと、几帳面な部分はあるし、そもそも、汚い好きの人間など存在しない。試しに、あなたと違う血液型の血液型占いの本を見てみると良い。恐らくあなたにも当てはまる筈だから◆ 「その次に出たカードは女帝なんだ。母性のようなイメージだな。今日は子守りでもしていたのか?」 「いや、子守りはしてないな。子供は近くにいない」 「誰かを守ったとか?」 ボディーガードの事か! 「塩見! その占い良い線いってるぞ」 「だろ? よく当たるんだよ。監視でもしていたのか?」 「おお! 良いぞ塩見!」 「あとは……節制のカードが逆向きで出たんだ。何か贅沢したか?」 「贅沢? 高校生が贅沢出来ないだろ」 「何か高い物買ったとか、旨い物食べたとか」 「やるな塩見! 今日、高級寿司を食べたよ!」 俺もようやく、塩見の占いに興味を持ち出した。ドンピシャとは言わないけど、結構当たっている部分がある。 「いやいや、占い当たっているならダメだぞ。死神のカードが出ているからな。これから不吉な事が起こるぞ」 「じゃあ、対処法を占ってくれよ」 「分かった。じゃあ、ちょっと待っていてくれ」 塩見はぶつぶつ言いながらカードを引いているようだ。 「時雨……」 「どうだった? 対処法は分かったか?」 「審判のカードが逆向きで出たよ」 「それはどうなんだ?」 「ダメだ。対処法は無い……」 「何だそれ! そんな救いようの無い占いあるのか?」 「すまん、俺では力不足のようだ」 「いやいや、何とかしろよ。嘘でも良いから」 「ダメだ、占いは絶対だ。じゃあ、俺はこれで」 「はあ?」 塩見は電話を切ったようだ。 何だアイツ……。まあ、暇潰しにはなったけどな。 塩見の占いが当たっているところもあったけど、俺は信心深く無い。全く気にならないタイプだった。
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