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初監視
スマホを見ると時刻は午後8時50分。
ちょうど良い時間、そろそろ仕事だ。今までの時間は何だったんだろう。なんて楽なバイトだ。
部屋を片付け、高級寿司の器とペットボトルのお茶を持ってドアを開け、廊下へ出た。すると、ちょうどロマンスグレーの髪の執事が目の前に居る。
「あっ、ありがとうございます。持っていきますよ」
「あっ、すみません」
俺は高級寿司の器を手渡した。ロマンスグレーの髪の執事の後ろを歩いて階段を降りると、全員が揃っている。机とお茶は置いているけど、弁当は下げられている。ロマンスグレーの髪の執事は自分の部屋へ戻る。
皆、サングラスをしているので、どこを見ているかは分かりづらいけど、恐らく高級寿司の器を見ているだろう。俺だけ申し訳無い、という気持ちと、羨ましいだろう? という気持ちが半々だ。
ロマンスグレーの髪の執事が部屋から出て来て話す。
「それでは少し早いですが、次の方がいらっしゃってる様なので、今回も早めの交代にしましょう。お疲れ様でした」
全員が会釈をする。
「あと、次交代の5分前、11時55分から0時5分までは全員で監視をお願いします」
ロマンスグレーの髪の執事がそう言うと、皆は頷き、俺と黒髪パーマの男を残して各々の部屋へ戻った。
俺は一応パイプ椅子に座って10分程監視したが、当然、特に何も起こらない。立ち上がって伸びをしたり、ストレッチをして時間を過ごす。
時計を見るとまだ9時20分。暇だ……。全員、話し掛けにくいタイプだけど、黒髪パーマの男が1番マシだと思い、徐に黒髪パーマに近付いて話し掛ける。
「暇ですね」
「ん? ああ……」
「こんなに暇だと、逆に何か事件起こって欲しくなるから不思議ですよね」
「まあ、何もないのが1番だろう」
「そう言えば、頭良いんですってね。西大なんでしょ?」
「ん?! 誰から聞いた?」
「坂井直樹さんて知ってます? 俺、その人の代わりで来てるんですよ。俺の先輩が坂井さんと知り合いらしくて」
「なるほどな。坂井の代わりは、あんただったんだな。隣の部屋の奴かと思っていたよ」
「因みに、隣の部屋の丸刈りの人は知り合いじゃ無いですよね?」
「知らないな。でも、あんたと同じように、西大空手部の知り合いの知り合いとかなんだろうな」
「ボコボコに殴られてるし、空手部なんですかね?」
「どうかな。まあ、今日だけの関係だし興味は無いな」
黒髪パーマの男はかなりクールだ。西大の他の3人はもっとクールなのかも知れない。
2人の間に無言の時間が流れた。黒髪パーマの男にすれば、別に俺と話がしたい訳じゃないので何も問題無いけど、俺から話し掛けているので、この空気は少し気まずいと思い、「自分の兄も西大空手部です。時雨刹那って知っていますか?」と訪ねようとしたんだけど思い止まった。西大のエリートなら特にトラブルになるとは思えないけど、一応素性がバレるような話は止めておこうと。
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