永遠中学生時代

1/1
前へ
/55ページ
次へ

永遠中学生時代

出来の良い兄が居たから、俺の子供時代は最悪だった……。 中学卒業間近の頃、皆の進路が決まったと言う事で、俺は同級生から3対3のデートに誘われた。主催者はムードメーカー塩見だ。もう1人の男は氷上、背は低いがイケメン。とにかく顔がハンサムだ。そして、女性陣は、と言うと、学校のマドンナ望月(もちづき)さん。美人で頭が良い。あとの2人は木田さんと葉山さん。こんな事を言ったら失礼だけど、完全に人数合わせだ。明らかに人気が集中する。では、男性陣の人気はどうだろう? やはりイケメン氷上が1番人気か? ただ、自分で言うのも何だけど、俺もそんなに負けてはいない。そこまでイケメンでは無いけど、ソコソコの顔立ちだと思うし高身長。塩見はさすがにこのメンツだと少し落ちるだろう。面白いし性格も良いけど、お笑い向きの顔だから。 デート当日、ファミレスのランチから始まり、ボウリング、カフェ、ショッピング、ディナーと楽しんだ。凄く盛り上がった。塩見の力が大きい。どうしてもマドンナ望月さんを意識してしまうのだけど、塩見は女性3人へ均等に話し掛け、男性からも笑いを取る。デートを終え、連絡先を交換し、6人は家路につく。俺は家に着くと、すかさず望月さんへ電話を掛けた。 ◆恋愛を成功させるのに大事な物とは何だろう? 外見、性格、センス、頭脳、趣味、魅力、収入……。大人になるにつれ、収入が大きなウエイトを占めてくるが、永遠は高校生。収入は関係無いだろう。では、1番必要なものは……この中には無い! それは、スピードだ。 意味が分からないかも知れないが、例えば、あなたに好きな人がいないとして、5人の魅力的な異性が側に居るとする。さて、誰を選ぶ? 恐らく選べないだろう。何故なら全員魅力的なのだから。ここで大事なのがスピードだ。最初に、あなたに好きと言ってくれた人をあなたは選ぶだろう。勘違いしないで欲しいのは、スピードだけではダメだと言う事だ。ある程度魅力が無いと最速で失恋して終わるだけの話だ。 今回、魅力的な男が2人居る。まあ、塩見ももちろん魅力的なのだが、取り敢えず置いておこう。イケメン氷上と、ややイケメンで高身長永遠だ。もちろん駄目だと言う女性もいるとは思うが、男性としての標準は越えているだろう。そうなると先に挙げたスピードが物を言う。早く好きと言ってくれた方に振り向くだろう。◆ 「もしもし、望月さん? 時雨だけど」 「あっ、時雨君? どうしたの?」 「いや、特に用事は無いんだけど……。もし良かったら、また今度、2人で会ってくれないかな?」 ◆スピードと言っても、ここで「好きだ」だの「付き合ってくれ」だの言うのは時期尚早(じきしょうそう)だ。もちろん駄目だと決め付けないし、上手く行く事もあるだろう。ただ、もし、相手が自分の事を好きではない場合、結論を先送りにした方が良い。 好きじゃないなら先送りにしても結果は同じじゃないか? と思うかもしれないが、そんな事は無い。心理学用語で『単純接触効果』と言うものがある。これは、最初、あまり好きな人じゃなくても、何度も会うと無意識の内に、少しずつ好きになっていくというものだ。101回目のプロポーズという大ヒットドラマもあっただろう。 あんなの作り話じゃないか! と思うだろうが、まあ、101回は大袈裟だとしても、2、3回振られた後、付き合ったと言う話は実際よくある。◆ 「ごめんなさい、気になっている人が居てて……」 「そうなんだ……。あっ、気にしないで、俺結構モテるから」 俺は訳の分からない強がりを言った。望月さんに気を使わせない為だ。 「また、お友達として誘って」 俺は電話を切った。 気になってる人が居てて……だと~。氷上かよ~。まあ、まだ傷が浅くて良かったな。痛てて……。 そんな事を思っていた俺は後に意外な事実を知る。実は望月さんが好きなのは刹那だったのだ。秀才の望月さんは当然刹那と同じ高校へ進学する。 ほろ苦い失恋で俺の中学生活は幕を閉じた。
/55ページ

最初のコメントを投稿しよう!

29人が本棚に入れています
本棚に追加