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永遠高校生時代
出来の良い兄が居たから、俺の子供時代は最悪だった……。
刹那は進学校へトップの成績で進み、俺は最低ランクの公立高校に何とか滑り込む。俺は刹那と別の高校で鬼体育教師、佐野と出会った事により状況は一変する。
俺が入学した吉谷高校では、クラブに無所属であれば、柔道部顧問、佐野の力で柔道部に入部させられる。辞める事は許されない。柔道場も特別広い訳ではなく、4面しかないので、1年生は筋トレがメインだ。だけど、実力主義なので、強ければ上級生も下級生も関係無い。素人でも無理矢理対戦させられ順位をつけられる。
俺は柔道部で気付かされる。自分が意外と強いという事を。それもその筈、柔道経験者以外は、ほぼ全員が元々帰宅部なのだから。しかも、俺はそんなに筋肉質でも無かったけど、180センチを超える身長と80キロぐらいの体重があり、1年生相手に連戦連勝。入部1ヶ月もすると、成績下位の者が1人ずつ退部していく。辞める事は許されないのじゃなかったのか? と思うだろうけど、自主的に辞めることは出来ないのに、退部を命じられると、辞めたくなくても辞めなければならない。
完全順位制なので2年生や3年生の下位の人達とも戦うようになるけど、それでも連戦連勝。無理矢理入部させられた柔道部だったのに、俺は柔道が好きになっていった。柔道が好きになると、勝ちたい気持ちが強くなり、練習や筋トレの量も多くなる。俺は相乗効果で強くなっていった。さらに、意図しないところで下半身が強化されていた。それは通学だ。高校生と言えば、朝起きられず、毎日ギリギリまで寝てしまうものだ。俺も同じで、ギリギリまで寝て必死で学校へ行く。吉谷高校はとにかく遠い。俺の家から自転車で1時間掛かる。その上、学校は山の上にあり、競輪選手並のトレーニングになるんだ。いつも、俺は体操服で通学し、毎朝、汗だくになりながら1時間目の授業を受けるのが通例となっていた。とは言うものの、徐々に経験者とも対戦するようになるので、さすがに負け始める。しかも、今年の新入柔道部員は粒揃いだ。全国区の選手も多数いる。
◆しかし、負けても脳が勝った時の事を覚えている。先述した『部分強化』の効果だ。◆
俺は明らかに強くなっていた。吉谷高校柔道部は、1リーグ10人で上位2名と下位2名が毎月入れ替えとなる。俺はついに2部リーグに昇級した。だけど、1部の壁は厚い。それもその筈、吉谷高校は県立高校ながら、全国大会出場の常連高なんだ。
ある日、俺は1年生のグループで駅まで歩いて一緒に帰っていた。基本、自転車なので1人で帰るのだけど、時々、駅まで皆と帰る事もあった。いつも、同級生のムードメーカー塩見が会話を盛り上げる。そう、あの塩見だ。
「柔道は判定方法が曖昧なんだよな」
「まあ、確かにどっちが投げたか分からない時あるもんな」
「巴投げとか、既に背中ついちゃってるからな」
「判定基準を明確にしないから、世紀の誤審とかが生まれちゃうんだよ」
◆世紀の誤審とは
柔道に限らず、スポーツでは審判の判断に左右されるところが大きい。もちろん、大きな試合になればなる程、審判のレベルも上がるのだが、人による判断だ。神じゃないのでミスも出る。
シドニー五輪柔道100キロ超級決勝、日本人選手が内股すかしで1本を取ったかに見えたが、主審の判定は相手選手の内股が有効と判定した。もちろん、どちらの選手も倒れているので判断が難しい。
結局、判定が覆る事は無く、結果、日本人選手が負けとなったのだが、明らかに誤審の為、歴史上最も酷い誤審とされている。◆
「もう、いっそのこと、観客に決めてもらえば良いんだよ」
「どうやって?」
「皆スマホ持ってるんだから、投票するんだよ。テレビで生中継見てる人も D ボタンで投票するんだ。面白いぞ」
「それ、アイドルの人気投票みたいになっちゃうじゃないか!」
「これで、俺が勝つ可能性が上がったな!」
「いやいや、逆に下がったよ!」
「何でだよ!」
良い雰囲気を保つ為と言う意味で、塩見は柔道部に欠かせない存在だった。
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