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「……え?どういう意味ですか?それ」
暫くの沈黙の後、聞こえてきたのは感情の読み取ることの出来ない、固く強張った声だった。
想像していなかった反応に、心臓がドクリと嫌な音を立てる。
彼は今どんな表情をしているのだろう。怖くて視線を床に落とす。エアコンの風は冷え冷えとしている筈なのに、なぜだか額に汗が滲む。
「 あ、えっと、ち、違うの。あのね、友達……そう、友達の話なんだけど」
ああ。変な事を聞かなきゃよかった。
考えが全くまとまらないままに、勝手に口が言い訳をし始める。
「その友達は好きな人がいるらしいんたけど、相手は会社の同僚らしいの。でも、一方的に好意を寄せてるのって相手からしたら迷惑なんじゃないのかなって悩んてるみたいで」
「……だから?」
「だから……私もつい、悩んでたら、今の時間まで仕事が終わらなくって……」
声が段々小さくなる。
「……そう、なんですか?だから今の時間まで残業してたって?」
「えっと……うん」
「じゃあ、誰かに何かされたとかじゃないんですか?」
「あ、うん。それは無い……かな」
「じゃあ目の周りが赤いのは?」
「と、友達の気持ちを考えてたら切なくなってきて、ちょっと泣けてきたというか……それだけだよ」
「ふうん……」
納得したような、しないような曖昧な返事をした田中君は「なら、よかったですけど」と、小さく吐息をほぅ、と漏らした。
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