メッセージアプリは波乱の予感

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―― 「ああいう時はイチ同僚としては、何て返すのが正しいのかな」  あのキュンとする言動が決して嫌な訳ではない。けれどドキドキし過ぎでは身が持たない。だとしたらここはこちらが勘違いしないように、気を引き締めるべきなのだろう。  こんな時は困った時の検索頼み。コーヒーを入れる間の片手間に、「思わせぶりな言葉 返答」なんてワードを携帯で検索してみても、うまい対処法はヒットしない。それどころか「思わせぶりな態度を取る男子は、好意を持っている証拠!」なんて結果ばかりが目についてしまう。    や……やっぱりそうなの?そうなっちゃう?  思わずデヘヘと頬が緩んでしまう。  ……っといけないいけない。自重どころかこれ以上記事を読んでいては、脳内がいよいよお花畑になってしまう。  パチパチと頬を叩いていると、「コーヒーのいい香りがするね」と声をかけられた。 「携帯見てサボりだなんて、良くないねえ」 「あっ……すみません」  咄嗟に画面をホームに戻しながら声の主の方を振り向くと、戸田課長が腕組みをしてこちらを眺めている。 「なーんてね、気分転換って必要だよね」  てっきり怒られるかと思いきや、ニコリと笑った戸田課長はスーツのポケットから携帯を取り出してポチポチ画面をタップし始めた。 「そういや小西さんて、メッセージアプリやってる?」 「あ、はい。一応」 「伝えるの忘れてたんだけど、俺、万が一に備えて課員とID交換することにしてるんだよ。社有のはアプリ入れるの禁止だから個人の方になっちゃうんだけど……。体調不良で急に休みを取る時に、電話やパソコンメールなんかよりも連絡取りやすいでしょ?」  確かにわざわざ電話をしたりいつ読まれるかわからないメールを送ったりするよりは、既読マークもつくので便利なのかもしれない。差し出されたQRコードを読み込むと、戸田課長のIDがアプリの画面に追加される。  「小西です。宜しくお願い致します」   テスト代わりに一文送信すると、受信画面を見た戸田課長は嬉しそうな顔をする。 「こちらこそ宜しく!俺も朝から席に居ないことが多いから、何かあったらこっちに連絡もらえると助かるよ。後は……そうだな。前に約束してた昼飯の件も……っと、電話がかかって来ちゃったな」  課長は社有携帯の着信音を一旦消しながら、「じゃ、この話はまた今度ね」と慌ただしくも給湯室から出ようとする。けれど一瞬何かを思い出したようにドアの前で足を止めると、くるりとこちらを振り返った。  「あ、そうだ。俺もね、実は獅子座なんだよ?」
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