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「今日は朝から災難でしたね」
結局駅に着いたのは、いつもの到着予定時刻の一時間も後のこと。ホームから改札口まで通常以上の人だかりの中かき分けて、遅延証明書を手に入れた私の後ろから声を掛けて来たのは田島さんだった。
「まさかこんなに遅れるなんて最悪ですね。課長、会社にいないといいなあ」
「ん?なんで?」
早足でボヤく田島さんに思わず疑問を投げかける。
「え?ああ。課長独自のルールなんですけどね。遅刻欠勤の連絡は必ず就業時間前にしろってお達しなんですよ」
「えっ?そうなの?それはまあまあ厳しいわね」
「まあ、なにかペナルティがあるわけじゃないですけど……。そういう事があると、やっぱり課長の機嫌は若干よろしくなくなるんですよね。そりゃ悪いのはこっちなんですけど、だからといっていつもいつも就業前に連絡できるとは限らないじゃないですか」
だとするとさっきのメッセージはギリギリ就業前。間一髪、セーフってところだろうか。
「あ、だったら電車の中で課長の携帯アプリに遅延のメッセージ送っておいたから大丈夫かもよ?」
ここぞとばかりに課長への不満を頬を膨らませ口にする田島さんに、せめてもの慰めと声をかけると彼女は不思議そうな顔をする。
「え?アプリ、ですか?」
「うん。あ、アプリは社有用には入ってないから個人の方だけど」
「個人の……ですか?」
何かおかしな事を言ったのだろうか。あんなに急いでいた田島さんは、ピタリと歩を止めた。
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