メッセージアプリは波乱の予感

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すっかり暗くなったと言え、夜の空気はまだまだ暑い。自動ドアの外へと踏み出すと同時に、熱気を含んだ空気がぶわりと全身を包み込む。 「建物の中とは大違いだね」 「……そうですね」 歩き出すにつれて身体は再び汗ばみ始めるけれど、田中君との会話はさっきと同じ。凍えそうな程に素っ気ない。 車が通り過ぎる度に、少し前を行くすらりとした体躯がライトに照らされる。さり気なく車道側を歩く気遣いは、昨日までならときめいていたところだろう。 だけれど。 一緒に帰る提案を、断ってもよかったのかもしれないな。 重苦しい空気に、そっと静かにため息をつく。 有無を言わせないような口調の前では頷くことしかできなくて、結局ここまで来てしまったけれど……。 きっと田中君のことだから、一人で夜道を帰すわけには行かないと義務感だけで誘ったのだろう。 確かに残業帰りの独り歩きはあまり気持ちの良いものではない。けれど気まずくなるくらいなら、今日は放っておいてほしかった。 私は再びため息をつくと、ほんの少し歩調を早めることにするのだった。 ―― 居心地が悪いまま駅に到着すると、二手に分かれた通路の端で足を止めた。 「えっと…、じゃ、私こっちの路線だから」 恐る恐る声を掛けて、ぺこりと頭を下げてみたけれど田中君は相変わらずの無反応。 「それじゃあ、ね」 立ち止まる田中君をそのままに、左手の改札口へと向かおうと足を踏み出すと、強い力に身体がグンと引っ張られた。 驚いて振り返ると、田中君の大きな手が私の手首をつかんでいる。 「あの……?」 戸惑いながら声を掛けると、田中君は下を向いて何かをボソリと呟いている。 「俺の……」 「え?」 雑踏でよく聞こえない。 「ごめん。もう一度言ってくれる?」 謝罪の言葉を告げると一瞬肩をビクリと震わせた田中君は、勢いよく頭を上げる。 「あの、俺の好きな人……」 「うん?」 「俺の好きな人、小西さんだって言ったらどうしますか?」
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