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ぼくは神社に出かける前に一旦家に帰ってスニーカーからビーチサンダルに履き替えた。ホントは下駄がよかったんだけど、そういうの持ってなかったんだ。帰ってきた母ちゃんの目につくように、ダイニングテーブルの上に「いつき兄ちゃんの ゆかたをかりたよ」ってメモを残してきた。
うちの鍵を首から下げて、樹兄ちゃんとフミさんちの方へ行くと、二人は門扉の前まで出て待っていた。樹兄ちゃんは白っぽい浴衣に黒っぽい帯で、フミさんは紺地に白いツバキの柄の浴衣に赤い帯を締めていた。蝉しぐれはいつしか蜩に替わり、西の空は淡く赤味を残して夜に変わろうとしていた。蒸し暑い空気に時々、涼しい風が吹きわたる。
ぼくは、道すがら友達のさとるのことを、樹兄ちゃんとフミさんに話した。さとるはいい奴なんだ。さとるんちは、父ちゃんが病気で死んじゃっていないから、さとるの母ちゃんとおじいちゃんとおばあちゃんと住んでるから、こないだ喧嘩になっちゃったんだ。
樹兄ちゃんは僅かに笑みを浮かべたまま、ぼくの話を聞いてうんうんと頷いていた。
小学校の建物が見えてくると、通学路を何組かの親子が歩いているのが目に入った。同じ方向を向いて歩いているのを見ると、みんな神社に行くみたいだ。その中で、肩くらいまでの髪の女の人と子どもの組み合わせを見つけて、ぼくは声を掛けた。
「さとるー!」
子どもの方がくるりと振り返った。
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