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「ふむ」
鹿島さんは、フミさんの顔をジッと見た。
途端に、フミさん、蛇に睨まれたカエルみたいに身を固くして俺の腕にしがみついた。
え? どういうこと? 確かに鹿島さんは強面だけど……。
他の人たちにラムネを配っていた諏訪さんが、こちらの様子に気が付いて、ちょいちょいと手招きする。俺とフミさんは顔を見合わせてから、人の輪から離れて諏訪さんのところに行った。
「こちらのお嬢ちゃんが苦手なモンは、炭酸だけじゃなかろう?」
諏訪さんはぽわぽわの白髪頭を揺らして微笑んだ。
やっぱり、フミさんがヒトじゃないことが解っているみたいだ。俺の顔と諏訪さんの顔を行ったり来たりしてフミさんの視線が、虚空の一点に据えられた。
「あの……」
躊躇っていた様子のフミさんが、意を決してきっぱりと顔を上げる。
「私、……文字しか食べられないんです」
「うむうむ」
諏訪さんは、フミさんの決死の告白を「ピーマンが苦手なんです」と言われた程度の反応で応じた。あっ、そう? というくらいの軽い反応に、こちらの方が面食らう。
「せっかくヒトの現身を得たのに、それでは不便であろうなぁ」
諏訪さんはそう言うと、猫背気味の背をしゃんと伸ばしてフミさんの額に手をかざした。一瞬、驚いて身を引きそうになったフミさんは、そろそろと身体の力を抜き、諏訪さんにされるがまま頭を撫でられた。
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