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「昔はここも、もっと賑やかで子どもの声にあふれていたもんじゃが……、随分と静かになってしもうたわい」
諏訪さんは穏やかな視線を人の輪に向けた。
「特に夏は、子どもの声がしないのが寂しゅうてなぁ。心細く思うておったところに『学童保育』ちゅうもんで呼べばええと大神が言い出して、ものは試しとやってみたのじゃよ」
子どもたちも、香取さんや浅間さんからラムネを受け取っている。提灯の明るみに瓶を透かして見たり、親にどうやって開けるのかと問うてみたり、それぞれの反応が面白い。
「樹兄ちゃん!」
人の輪から、まこと君とさとる君がラムネ瓶を片手にこちらに走ってきた。
あらら……そんなに振ったら大変なことになるぞ。
俺は苦笑いしながら2人を迎えた。
「フミさんもラムネもらった? 一緒に乾杯しよう!」
満面の笑みでラムネ瓶を突き出す。乾杯だなんて、オトナの真似なのか、子どもの発想は面白い。諏訪さんからラムネを受け取ったフミさんは、心配そうに諏訪さんを見返した。にっこり笑って頷く諏訪さん。
「ラムネの開け方、知ってるか?」
俺が訊くと、二人とも当然だぜ! と得意げな顔をした。一方でフミさんは瓶を持ち上げたまま、怪訝そうな顔でラムネを眺めている。まこと君たちが瓶を抱え込むようにして栓のビー玉を押し込もうとしているのを見て、俺は思わずフミさんの袖を引いて距離を置くように促した。
ブシュッ!
ついさっき振り回していたラムネ瓶から、勢いよく中身が吹き出す。
まこと君たちは、うわーっ! と歓声を上げて、慌てて飲み口にしゃぶりついた。
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