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 あいつと出会ったのは、小学生の時の、とある下校中のときだった。 「なあお前、なんで昼休みの間、ずっと教室で勉強してんの? 頭いいのにさ」  その時、ハルとは新しいクラスで一緒になったばっかりで、俺はそこで初めて、こいつがいつも、登下校の班で一緒のやつだと気づいた。俺は気にしていなかったけれど、あいつはずっと一方的に、俺を気にかけていたようだ。 「なんでって、ママの宿題をやってるだけだよ。僕は医者にならなきゃいけないから、たくさん勉強しなきゃいけないんだって」  俺がそう答えると、ハルはつまらなそうに、「ふーん」と返した。 「それ、ぶっちゃけ楽しいの?」 「楽しいって言われても……やって当たり前のことだと思ってるから。特になんとも思ってないよ」  俺がそう返すと、ハルはますます不満げの顔をして、「つまんね」と、一言はっきりと告げた。 「なあ、お前、俺の家遊びに来ねえか? お前知らないみたいだけど、俺の家、お前の家のすぐ隣なんだぜ」  正直、ハルに言われるまで本当に気づかなかった。俺はずっと、勉強のこと以外に関心を向けないような、おかしな児童だったから。 「そう言われても……僕、早く宿題終わらせなきゃいけないし、ママが帰ってきたらバレちゃうよ」 「だったら、母ちゃんが帰ってくるまでに戻ればいい話だろ。いいから来いよ。たまには一緒に遊ぼうぜ」  そう半ば強引に、俺はハルの家へと連れてかれた。今思えば、小学生だからこそできた荒業だっただろう。  ハルは俺を、家の中のとあるガレージに案内した。その中は、レコードやCD、楽器やアンプ、エフェクターなどがたくさん仕舞われた、今思えば宝箱のような場所だった。ハルの父親はバンドマンで、彼の収集品がひたすらに収められていたのだ。  当時の俺にとって、そこはまさに、新しい世界といっても過言ではなかった。俺の知らなかったものの全てが、この中にある。その衝撃は、今でも忘れることが出来ない。 「お前、音楽とか聴かねえの? 音楽はいいぜ、聴いてるだけで楽しくなれる」  そうハルは、アコースティックギターを一本運び出してくると、弦を指先でつまびき始める。時々外から聞こえてきていた音色はこれだったのかと、俺はようやく合点がいった。 「晴夏(はるか)くん、すごいね! ギター弾けるの!?」  その言葉に、ハルは特に恥ずかしがることもせず、ただ明るく笑って答えた。 「呼び捨てでいいよ。ハルって呼んでくれ」  そのまま俺は、ハルにたくさんのものを見せてもらった。ドラムを叩いてみたり、レコードを再生して聴いてみたり、バンドが特集された雑誌を読んでみたり……それこそ、時間が経つのも忘れてしまいそうなほど、俺はハルに連れてこられた、この音楽という世界にのめり込んでいた。  思えば、この時点で俺はもう、こいつに人生を狂わされていたんだ。
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