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 だから、高校生になって、ハルにバンドに誘われた時も、ボーカルを自ら志願することはしなかった。俺はベースで、ハルはボーカル、中学の同級生だったヨウはギター、先輩だったアオイはドラムを担当して、4人で''HOT BOOST''を結成した。高校生が考えそうな、とにかく青臭いバンドだったと思う。  でもこの時が、俺の人生の中で一番楽しい瞬間だったかもしれない。勉強の合間に楽器を練習して、集まってセッションして、ライブハウスや路上で、即興のライブパフォーマンスをしたこともあった。その時に、俺たちの音楽で喜ぶ観客たちを見る度に、やっぱり俺はバンドがしたい。ボーカルじゃなくてもいいから、俺はバンドを続けたい。そんな思いが、日に日に強くなっていった。  かといって、時の流れがそれを許さない。高校3年生になると、俺は母親に、とてつもない難関大学を目指すよう指示された。別に成績が悪化していたわけでも無いけれど、合格するためには、一日勉強漬けにならなければ間に合わないだろう。バンドをやっていることは母親に隠していたし、そもそも、バンドをやりたいなんて、口が裂けても言えなかった。  だから俺は、''HOT BOOST''をやめた。ちょうど同じ時期に、アオイも大学進学のためバンドを抜けたから、実質バンドは活動停止状態になった。仕方がない。高校生の組むバンドなんて、所詮こんなもんさ。俺は目を背けるように、ベースではなく参考書を抱えて、ひたすら勉強に勤しんだ。  その時から、俺とハルの間には、明確な距離ができた。別に、互いに何か嫌なことや不快なことをしたとか、そういうわけではない。ただ、何か気まずさみたいな、そんなものが生まれていたのは確かだったと思う。 「お前、本当にバンドを続ける気はねえの?」  とある日の帰りの電車の中。俺は、ハルにそんなことを聞かれた。その時のハルは、ひたすらヨウと2人でセッションして暇を潰すような、そんな日々を過ごしていた。バンドが無くなって、つまらない思いをしているのは、ハルも同じだったのだろう。 「そんなこと言ったって……知ってるだろ。俺は母さんに言われた通り、この人生を歩むしかないんだ。子どもは親に逆らえない。育ててもらってる限り、そんなの当たり前だろ」 「そりゃそうかもしんねえけど、だからってそれは、お前の本心じゃねえだろ。ただ言い訳して逃げてるだけだ」 「分かってるよ。でも、そうしてなきゃやってらんないじゃねえか。それに、いいんだよ。大学生になれば、俺は幾分自由になれる。そうしたら、''independent''のライブに行くことも、楽器をやることも、最終的に医者にさえなれば、誰にも制限を受けなくなる。だから、俺はとにかく、大学に合格することを目指すだけだ」  それでもハルは、俺の言うことに納得することは無かった。たぶん、ハルには全て見透かされていたのだろう。俺がずっと昔からそうやって、自分の本当の思いから目を背け続けていたことに。
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