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前の職場では桜良と交際を始めて
すぐに俺との仲が社内に広まったことも
あって誰も専務の彼女に手を出すものはいなかった。
だから、俺にとって嫉妬という感情を経験したのは今回が初めてなのだ。
こんなにも嫉妬という感情が自分の胸に醜い憎悪を掻き立てるものかと俺はひとりイライラをつのらせていた。
パスタ屋に到着するとすでに二人は窓側のボックス席で向かい合って談笑していた。
何がそんなに可笑しいのかと俺は
気になって今にも割り込んで行きたい気持ちをなんとか抑え込む。
「あっ、いたいた。
あそこの隣の席に座るか」
そう言って店員さんの案内を断って
桜良達の元に歩き出す黒木の後ろを
平静を装って続いて歩く。
きっとここにいる誰もが
俺の心の中で今すぐにでも桜良の目の前にいる男の胸ぐらを掴んで脳天かち割ってやりたいくらいの衝動に駆られているなんて夢にも思わないだろう。
「お疲れ様!偶然だね!」
黒木が二人の座る隣のボックス席に
腰を下ろしながら話しかける。
「お疲れさまです。黒木さん達もここのパスタ食べに来たんですね。」
桜良はびっくりした表情を向けながら
言った。
偶然ではなく必然なので
いたたまれない気持ちで腰を下ろした。
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