第3話

11/101

1424人が本棚に入れています
本棚に追加
/224ページ
ヤバいと思った俺はちょうど通り掛かった店員さんに「すみません!珈琲のおかわりください」となんとか誤魔化す。 目の前の黒木は顔を伏せて 笑いを堪えているが、今にも口から パスタが飛び出しそうになっている。 しかし、今は黒木に笑われようがからかわれようが桜良がなんと返事をするのかが俺にとっては重要で意識はすぐに隣の二人の言動に集中していた。 「土曜日?」 「うん、水族館でイベントを開催するみたいなんだけど、面白そうなんだよね。」 男はスマートフォンを操作すると イベント情報の載っているページを 探し出してそれを桜良に差し出した。 桜良は「ほんと面白そう」と かなり乗り気な様子でスマートフォンを覗き込んでいる。 俺は心の中で“桜良、頼むからそんな誘いに乗らないでくれ”と念じる。 「あっ、でもその日は法事があって」 桜良の答えにホッと胸をなで下ろした。 しかし、ホッとしたのも束の間、 「じゃあ、日曜日はどう?」 男はグイグイと桜良に迫る。 「うん、日曜日なら大丈夫だよ」 桜良の返答に男は「やった!!」とガッツポーズをしている。 その嬉しそうな様子を見て確実に男の方は桜良に好意があることは容易に想像できるのだが、桜良の方はというと食後のケーキが目の前に出されてそちらの方に意識が持っていかれてるようだった。 きっと、相手の男が自分に好意を向けているなんて夢にも思っていないだろう. . . 俺の時だって散々食事に誘ったり、アピールしていたつもりだったのに告白するまで俺の好意に気づかなかったのだ。 当時は桜良のそういった鈍感なところも 可愛く思ったが今はもう少し男に対して 警戒心を持ってほしいと苛立ちさえ 感じてしまう。
/224ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1424人が本棚に入れています
本棚に追加