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「じゃあ、そういう竜海さんはどうなんですか?」
私はムスッとしたまま呟いた。
「はっ?俺?」
「あの秘書の松谷さんにいつも鼻の下伸ばしてたじゃないですかっ。」
いつも仕事場では竜海さんのそばにあの綺麗な人がついていて、私なんかよりずっと
お似合いな二人に心痛めてたのだ。
「俺がいつ鼻の下伸ばしてたんだよ?」
実際、竜海さんが松谷さんに対してデレデレしている姿なんて見たことはないけど、ただ二人が話しているだけで、どうしてもそう見えてしまうのだ。
「それに色んな人に愛想振りまいてるのは
竜海さんの方だと思いますけどっ。」
私の中で今まで抑えてきた嫉妬心が
竜海さんの言葉が引き金となって
次々と口から飛び出してくる。
「いつ俺が?」
「昔、女性社員が化粧品サンプルが入ったダンボールを竜海さんが代わりに持ってくれたって騒いでたことありました。
そういう誰にでも優しくして気を持たせるのどうかと思いますっ」
私はそこまで言うとふいっとそっぽを向いた。
「それは重そうにしてたから、手伝っただけで別に下心で
優しくしたわけじゃない。
気を遣うのは仕事上、多少なりとも必要なことだろ?」
「私だって同じです。禅ちゃんは高校時代からの大切な友達なので優しくするのは当然です。」
私は外に目をそらしたまま、
つっけんどんに呟く。
竜海さんは「大切って...」と息を吐くと
「桜良がそんな悪態をつく女だったとは思わなかったよ」
拗ねたように言った。
「私だって竜海さんがそんな意地悪なこと言う人だとは思いませんでした」
それから、二人は一言も会話を交わさぬまま
水族館に着いた。
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