01

14/14
前へ
/39ページ
次へ
 嫌悪。嘔吐。吐き気。玉のように吹き出す汗を拭うことすらできない。犯され続けた体は最早自分の体と思うことすらできなかった。 「間人君、俺のこと好きって言えよ……っ、ねえ、言って。ほら、君の口から直接聞かせてほしいんだ」  お願いだから、と縋りつくように胸に顔を埋めてくる。乳首を噛まれ、血が滲みそうなほど乳輪ごと歯を立てられれば全身が凍り付く。  火照り、恐ろしいまでに鋭利になった神経はそれだけで太い針が貫通したような錯覚を覚えるほどだった。  こんな男のことを好きなんて言うこと自体吐き気がした。言いたくない。けれど、言わなければ父さんと母さんが危ない。そう思うとなにも考えることができなくなる。 「っ、す、き……ッ、ん゛、ぐ……ッ!!」  言い終わるよりも先に、顎を掴まれ、口元を舐めるようにキスをされる。興奮で蕩けきった目のやつに執拗に舐られ、咥内までも犯される。  指先に力すら入らない。ただやつにされるがまま、体重で潰されそうになりながらも受け入れることすらできない。 「っ、はあっ、間人君、俺も……ずっと君のことが好きだ……好きだった、今も……これからも……っ、ああ、はは! 泣いてるの? 間人君」 「っ、ふ、ぅ゛……ぐ……ッ」 「……ごめんね、俺ばっかり気持ちよくて……っ、もっと上手く、君も気持ちよくなれるように頑張らないとな」 「ひ……ッ、ぅ゛……ッ、ふ、ぅ゛う゛……ッ」  肉の潰れる音が聞こえる。泣きたくなんてなかった、こんな男に弱みなんて見せたくないのに。  目尻から流れる涙のあとごと舐めとられ、そのままキスをされる。  言葉とは裏腹に勃起は収まるどころか更にペースを上げていく花戸に、俺はやつにしがみつくのが精一杯だった。痙攣の止まらない腰を掴まれたまま、何度目かの射精を腹の奥にたっぷりと注がれる。やつの熱に満たされていくことに耐えきれず、吐き気が込み上げた。 「っ、はあ、……ッ、ぁ゛……ッ」  今度こそ終わるだろう。そう、肺に溜まった空気を吐き出したときだった。腹の奥、萎えるどころかすぐに勃起するその性器に背筋が凍りついた。 「っ、待っ、も、ぉ゛……ッ、むり……ッ、ぉ゛、かしく……ッ、おかしくなる……ッ」 「ああ、大丈夫だよ。……俺は、君がおかしくなっても平気だから」 「ぢが、ぅ゛う……ッ! ほんとに、これ以上は……ッ!!」  そう声を上げたとき、腰を撫でていた花戸の手に尻の肉を抓られ息を飲む。焼けるような痛みに目を見開き、声をあげそうになれば目の前には笑顔の花戸。  その目は笑っていない。 「さっきの言葉、もう忘れちゃった?」 「――ッ、ひ……」 「言ったよなあ、俺の家族になるって。間人君。……だったら、俺のことをお兄ちゃんみたいに思ってくれないと。君はお兄ちゃん相手にもこんなに我儘いっていたの? 違うよね?」 「い゛ッ、ふ、ぅ゛……ッ」 「……駄目だよね、それ。ルール違反だよ」  熱の抜け落ちたようなその声がひたすら怖かった。なんで、どうして。  スイッチが切り替わったように冷たくなるその目に背筋が凍り付く。尻を叩かれ退けぞれば、更に叩かれ痛みの残るそこを抓られる。 「い゛……ッ!」 「もう一回」 「っ、痛ッ、ぅ、……ッは、などさ……ッ」 「俺のこと、お兄ちゃんって呼んでよ」  みっちりと奥深くまで勃起した性器を挿入したまま、花戸は俺の体を抱き締める。腿を捕まえ、強引に足を開かせたまま更に深く腰を叩きつけるのだ。それだけで目の奥が焼けるように熱くなり、全身が震え上がった。ごぷ、と僅かな隙間から溢れる精液を無視して花戸は俺の腰を抱きかかえるのだ。 「……早くしろ」  底冷えするほどの低い、冷たい声。大きな掌に首筋を掴まれ、凍り付いた。  首を締められる。今度こそ本気で殺されるかもしれない。そんな恐怖を前に、正常な判断をすることなどできなかった。 「ぉ、お……っ、ぉ、にいちゃ……ッ」  俺の兄は、自慢の兄はずっと一人だけなのに。よりによってこの男を兄だと呼ぶことなんてしたくなかった。したくなかったのに、奥歯がガチガチと重なり、唇が震える。  花戸は満面の笑みを浮かべ、そのまま俺の唇にむしゃぶりついた。  そして、そのまま腿を掴まれたままピストンされる。 「っ、ふ、う゛、ひ、ぐ……ッ!!」 「っ、は、いい子だね間人君、ごめんね痛いことして……っ、ん、いっぱい、キスしてあげるからね……ッ」 「っ、ぅ、うう゛〜〜……ッ!!」  最悪の時間だった。屈辱で、なによりもこの男を受け入れてしまうことしかできない自分が悔しくて、とどまることを知らずに溢れる涙を花戸は美味しそうに舐めとるのだ。  セックスが気持ちいいなんて誰が言い出したのか。  傷が癒える間もなく裂傷に裂傷を重ね、血が混ざった精液を垂れ流す。何度目かの中出しの末、パンパンに膨らんだ腹を花戸に押された瞬間汚い音ともに吹き出す精液の塊を見て花戸は「これは俺の君への愛の結晶だよ」などと言ってシーツの上のそれを舐めさせてきた。  抵抗すれば殺す。この男はそれを躊躇なく行うことができる。それをわかっていたからこそ歯向かうことができなかった。  今はただ耐えろ、耐えろ、耐えろ。兄さん。助けて、助けて兄さん。  咥内に広がる血と精子の味に耐えられず嘔吐する。最早俺の体にはこの男からの暴行に耐えられるほどの体力は残っておらず、それを皮切りに俺はベッドに倒れ込む。吐瀉物で汚れようが気にすることすらもできない。  意識だけがある。そんな虚脱感の中、俺はそのまま気を失った。花戸がなにかを言っていたような気がしたが、もう俺にはなにもわからなかった。
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!

108人が本棚に入れています
本棚に追加