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 この男がおかしいということは分かっていたことだった。  それでも、だ。 「……っ、ふ、ぅ゛……ッ!」  つい、呼吸が止まる。  そんな俺を見下ろしたまま、花戸は端末を耳に押し当てたまま腰をグラインドさせる。拍子に、前立腺を擦り上げられ、堪らず全身が軋んだ。 「ああ……間人君のことですね、確かに彼、少し体調悪かったみたいですね。疲れて車の中でも眠ってるみたいでした。……ええ、お兄さんのことも引きずってたみたいだったので多分それもあるかもしれません。もう少し、お兄さんのこと忘れられるように俺のところで預からせていただきますね。え? ……いや、全然気にしないでください。俺も一人で心細いところ、間人君がいるお陰で大分傷も癒やされていたので」  ギッギ、と軋むシートの上。呼吸を乱すことなく母親と電話する花戸。ゆるく中をじっくりと舐るような動きで抽挿をされる度に全身が跳ね、亀頭で中を摩擦される度に出したくもない声が鼻へと抜けそうになった。  ――この男はいけしゃあしゃあとなにを言ってるのか。  電話の向こうには母がいて、母は俺のことを気にしてくれている。それを、この悪魔のような男が舌先三寸で丸めこもうとしている。  ――それも、現在進行形で俺を犯しながらだ。 「――た、すけて……っ、母さん」  危険が及ぶ、なにをされるかわからない。  頭の中では分かっていても、体が言うことを利かなかった。  気付けば俺は、電話の向こうにいる母親に向かって声をあげていたのだ。  瞬間、端末を手にしたまま花戸は俺の口を塞いだ。 「ああすみません、ちょっとまだ外なもので。……それじゃ、おやすみなさい。瑤子さん」  そう電話に向かって囁いた花戸はそのまま通話を半ば強制的に終了し、そして――。 「っ、ん゛、う゛う……っ!」  鼻、口ごと顔下半分を押さえつけられたまま花戸は大きく腰を打ち付けた。先程までとは違う、乱暴なピストンに耐える方法など俺にはわからなかった。下半身が壊れそうなほど乱暴に腰を打ち付けられる都度、恐怖のあまり萎えかけていた性器がぶるぶると揺れ、押し広げられた腿にぶつかる。 「っ、ふ、う゛……っ」 「は……っ、駄目じゃないか、間人君……大人しくしてなきゃなあ……っ」 「ん゛、う゛……っ!!」  破裂したような音とともに結腸の入り口を亀頭でこじ開けられ、膝裏を掴まれたまま大きく開脚された下半身をその性器でひたすら貫かれる。  快感などとは程遠い、それは最早暴力だった。 「瑤子さんに心配かけちゃだめだろ? ……っ、なあ、助けてってなんだよ。びっくりしてたよ、君がそんなこと言うから」 「っ、う゛、む゛……ッ!」  耳を塞ぎたくなるような音が車内に響き渡る。執拗に結腸の奥、その突き当りを亀頭で押し上げられれば脳味噌が液状化したみたいになにも考えられなくなるのだ。  潤む視界。そして、ふいに再び携帯に目を向けた花戸はそのままちらりとこちらを向いた。 「――今度はちゃんとしなきゃだめだよ、間人君」 「っ、ぃ……」 「はい、どうしました? 瑤子さん」  そう俺の乳首を摘みあげたまま、再びかかってきたらしい母からの電話に出る花戸。  やつは結腸までずっぽりと性器を収めたまま、腰の動きを止める。それが余計苦しくて、乳首を弄ばれる度に下半身に響く快感に思考が乱れる。  花戸と母の会話など頭に入ってこなかった。けど、ここで花戸が動いたら終わる――それだけは分かった。 「ああ、ちょうど起きたみたいだから間人君に代わりますよ。――間人君」  そう、俺の乳首を柔らかくシコりながら、花戸は俺の腰を軽く揺さぶった。それだけで限界まで圧迫されていた前立腺が圧され、滲む視界の中俺は目の前、覆い被さってくる男を見る。 「君のお母さんが声を聞かせてほしいだってよ。……ほら、君が気絶したから心配してるんだよ」 「聞かせてあげな」そう、俺の乳首をぎゅっと掴む花戸。下手なことを言えば引きちぎる、そう言わんばかりに爪の先でカリカリと引っかかれ、呼吸が浅くなる。  目の前に向けられる携帯端末に表示された母のアイコン。『間人?』という母の声に、頭の中は余計かき回された。 「か、ぁ……さん……っ」  助けて、お母さん。俺、俺。 「――」  助けて、と喉の先ギリギリまで出かけたときだった。ぐぢ、と濡れた音を立て、結腸手前の窪みを亀頭で引っ掛けられ、ずるりと引き抜かれそうになる性器に思わず「ぉ゛」と声が漏れた。  顔をあげれば、恐ろしいほど冷たい目であの男はこちらを見下ろしていた。少しでも妙なことを言えば、あの女も殺す。そう殺意のようなものすら感じた。  冷たい汗が、涙が滲む。 『間人? 大丈夫なの? ……声がおかしいみたいだけど』 「多分、寝起きだから……し、んぱい……、かけて、ごめん……ぉ、俺は……ッ、だ、大丈夫……だから」  心配しないで、と、揺さぶられる下半身。ぐぷ、ぐぽと音を立ててゆっくりと奥をこんこん突き上げてくる性器に、噛まないように喋るのが精一杯だった。 『そう、ならいいけど……家にいるのが辛くなくなったら、平気そうだったらいつでも帰ってきていいんだからね』 「ぅ、ん」 『……きっと、あの子も待ってるから』  そしてぷつりと母との通話は切れた。――正確には切らされた。俺の手から端末を手にした花戸はそのまま通話終了の表記を押したまま、こちらを見下ろしていた。先程とは打って変わって、嬉しそうな笑顔で。 「……よかった、今度はちゃんと頭が回ってるみたいで。さっきみたいに寝ぼけたこと言ったらどうしてやろうかと思ったけど、その心配はなさそうだね」 「頑張ったね、間人君」と頬や目尻、額へとキスをする花戸はそのまま俺の唇に吸い付いた。俺は、あまりの疲弊感に抵抗する気力もなかった。  抱き締められる体。ただ、自分の中に残っていたのは優しい母の声と、『やってしまった』という強い後悔の念だった。
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