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 あれから、どうやって花戸のマンションまで戻った来たのか覚えていない。  車内で散々犯され、気絶するように意識を飛ばしたあと気がつけばいつものように花戸の部屋へと帰ってきていたのだ。  そして、 「おはよう、間人君。随分とよく眠っていたみたいだね」  ベッドの隣にはあの男がいた。相変わらず足首には手錠がついている。けれど、腕の手錠は外れていた。  伸びてきた指先に緊張するが、花戸は構わず俺の首に触れる。 「……っ、ぅ」 「赤みは大分取れたみたいだね。……よかったよ、この前は強い電流流しすぎたみたいだから心配してたんだ」  すり、と乾いた指先が喉仏の隆起を柔らかく撫でる。このまま首を締め上げられるのではないか、そんな想像に全身が硬直し、頭は真っ白になっていく。  けれど、花戸は微笑むばかりで、首を締め上げて器官を潰すような真似はしてこない。  ――その代わり、柔らかく俺の額に口付けるのだ。 「さあ……食事にしようか、間人君」  まるで恋人に接するかのように、柔らかい笑顔を浮かべて俺を甘やかす花戸。  意識と体はときにちぐはぐな場合もある。食欲なんて沸かなかったが、体は空腹を訴えるのだ。花戸の言葉に反応するように鳴る腹部に、花戸は「元気そうで良かったよ」と俺のお腹を撫でる。 「今朝は俺が作るよ。……今から作るからちょっと待ってもらうことになるけど、出来立てを食べてもらいたかったから」  その言葉に、花戸もまだ起きたままの状態なのだと気付いた。一緒のベッドに眠っていたのだと思うとぞっとした。  そんな俺に構わず、やつは「それじゃ、間人君も起きて」と抱き起こす。そしてそのまま俺を寝室から出すのだ。  そして、 「そこで待っててよ、すぐに用意するから」 「……」 「ふふ、まだぽやぽやしてるね。おねむたのかな?」  ――花戸宅、リビングルーム。  俺をソファーの上に寝かせたあの男はそういって俺の頭を撫でる。  頭を撫でる手に緊張し、「わ、かった」と慌てて返した。咄嗟に声を発したせいで酷く喉がガサツいた。咥内の粘膜も乾いている。花戸は「先に飲み物用意してくるよ」と立ち上がった。  そして、花戸は水の入ったグラスを片手に戻ってくる。そして、いつものようにそれを口移しで飲まされるのだ。もう抵抗する気力は俺には残っていなかった。  それが花戸のお気に召したようだ。たらりと唇の端から垂れる水を舐めとり、「それじゃ、ここで大人しく待っててね」と花戸は優しく俺の頭を撫で、キッチンの方へと向かう。  ――キッチンならば、包丁くらいはあるはずだ。  そんなことを考えながら、どこからか撮ってきたエプロンを身に着けて料理をする花戸の背中を見ていた。  幾ら俺の拘束があるとしても手くらいは動かせる。近くに刃物があれば、それを背中に向かって投げることだってできるというのに。  あまりにも無防備だな、と口の中で呟く。けれど、これは俺にとって好機でもあった。  ――花戸を油断させる。  この男は、従順でさえいれば敵意を向けてはこない。人殺しのクソ野郎には変わりないが、それでも俺に対してはただの異常性癖のレイプ野郎なのだ。  何より恐ろしかったのは、この男は人を殺すことに躊躇がないようなサイコ野郎だということだ。そして、その場合その矛先を向けられるのは俺の家族だった。  それならば、俺が我慢さえすれば家族の身の安全は保障される。  それでも、ただ大人しく言いなりになるわけではない。今はとにかく、こいつに抵抗できるほどの英気を養うことが最優先事項だろう。  あの男を警察に突き出すにしても、この手で殺すにしてもだ。  俺に残された道は多くはない。選択肢を増やすにしても、今の状況では身動きとることは不可能だということは明白だった。
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