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「ずっと眠ってたんだ。君も喉も乾いただろ」
そう、目の前に伸びてきた花戸の手が口を塞いでいたテープを剥がす。
皮膚が引っ張られ、あまりの痛みに思わず顔を反らした。ヒリヒリと痛む口元。ようやく息苦しさから開放され、新鮮な空気を取り込もうと呼吸を繰り返そうと開いた口に指がねじ込まれる。
そのまま顎を開かれ、思わず目を見開いたその時だった。ばちんと勢いよく頬に当たるその硬く熱い感触に硬直する。
「だから、はい」
「……っ、ぇ」
「喉乾いたんだろ? 水分補給しないとね」
そう視界いっぱいに広がる肉の色。頬に押し付けられるものが花戸の性器だと信じたくなかった。
吐き気がした。何を考えてるのか。
既に勃起した性器を躊躇なく咥えさせようとしてくる花戸から逃げようとするが無駄に終わる。
「っ、んぶッ」
「っ……はあ、本当小さい口だね。喉の奥まで入れたら潰してしまいそうで怖いな……」
「ん゛ぅ、ふ、ッぅ……ッ」
吐き出そうとするのに、それを無視して俺の後頭部を掴んだ花戸はそのまま口の中、頬の裏側の肉や上顎へと亀頭や性器全体を擦り付けるようにゆるく腰を進めてくる。
噛みちぎれるのなら歯を立てていたところだったのに、挿入されたときとはまた違う圧迫感と存在感のあまり口を閉じることすらもできなかった。
唾液が滲む咥内、やつの先走りと混ざってぐちゃぐちゃと粘着質な音を立て花戸は腰を動かす。気遣ってるつもりなのか、それでも奥へと進む意志だけは伝わって恐ろしかった。
「ぉ゛ッ、ふ、ぅ゛……ッえ゛ッ、ぅ゛……」
後頭部を優しく押さえ付けられ、そのまま花戸の下腹部へと寄せられる。拍子に亀頭が喉仏を掠め、そのまま喉の奥、器官の方まで犯されたまらず胃液が溢れる。が、性器で既にいっぱいいっぱいになっていた咥内に吐瀉物は行き場を無くして僅かな隙間から胃液が溢れた。逆流した一部の嘔吐物が鼻から噴き出す。
「ぉ゛ッ、ん、ぅ゛う゛ッ!」
「あ……吐いちゃった? 酷い顔だね、苦しい?」
「ふー……ッ、ぅ゛、ん゛、ぅ……ッぉ゛、ふ……ッ! ぅ、ぐ!」
「……でも、俺の噛まなかったのは偉いね。ご褒美にもっとここ、擦ってあげようね」
少量ではあるものの吐瀉物で汚れる口に嫌悪感を示すどころかさらに口の中の物は固くなる。興奮の色を滲ませ、先程までの気遣いも薄れ性急に動き出す花戸に目の前が真っ暗になる。
「ん゛ぅ゛ーッ!! っ、ふ、ぅ゛ッ! う゛ぉ……っ!!」
「っ、いい声だね……待ってね、すぐにお腹いっぱいにしてあげるから……っ、ん……」
嫌だ、やめろ。止まってくれ。
顎が壊れそうになる。喉を突き破って項から突き上げられるのではないかという恐怖に体が竦む。
花戸の吐息と粘り気のある水音が響く。悪臭の広がる口の中。吐くものもなくなり、それでも内側からの刺激に堪えきれずに喉の器官が拒絶しようと締り、その度に花戸の目が細められるのだ。
そのときだった。もがく俺の頭と背中に腕を回し、抱き締めるように更に頭を押さえ付けられる。鼻先が陰毛に埋まり、逃げようとするが体はびくともしなかった。
「……間人君、一滴も零さず飲み干してね」
そして、頭上から落ちてくる声とともに咥内いっぱいに頬張らされたそれが大きく跳ねた。瞬間、喉奥へと吐き出される精液。粘つくように喉に絡むそれに咽る暇もなかった。
ぶるりと腰を震わせ、小さく息を乱した花戸だったがそのまま俺を見下ろした。歪む視界の中、俺と目があってあいつは笑った。
再び精液でどろどろになった咥内、まだ芯を持っていたやつの先端部から熱が滲む。精液とは明らかに違う、水に近いそれは次第に勢いを増し、喉の奥に向かって噴出するのだ。
「ぅ、ん゛ぶ……ッ?!」
それがなんのか、考えたくもなかった。熱いそれを必死に吐き出そうとするが頭を動かすことすらできない。それどころか、あっという間に口の中いっぱいに満たされたそれは俺の口元とやつの下腹部を濡らすのだ。味も、匂いも、感じる暇もなかった。
意思を無視して直接喉奥へと流される尿に吐き気が収まらず、そして咥内、喉が焼けるほどの熱に何も考えられなくなる。
逃げることもできず、受け止めることもできない。
出すだけ出して満足したのか、花戸は俺の口から性器を引き抜いた。
俺は、動くことができなかった。吐き出したかったのに、花戸がそれを許さない。先程まで空だった腹部は満たされ、ちゃぷちゃぷと音が聞こえるほどだ。微かに膨らんだ腹部を撫で、花戸は笑った。
「ああ、よかった。お腹いっぱいになったね」と。
出来ることなら記憶を消したかった。
けれど口の中に残る焼けるような痛みと鼻孔を侵す異臭はいくら呼吸を止めようとしても離れない。
「それにしても随分と汚してしまったね。すぐ風呂用意するから待ってて」
言葉を発することも出来ない俺の頬を撫で、花戸はそのまま部屋を出ていく。
出来ることなら今すぐ口の中に指を突っ込んで腹の中のものを吐き出したいのに両腕の拘束がそれを阻害する。
あの男はおかしい。何が目的なのかも分からない。けれど、自分と同じようなことを兄にもしたのだと思うとどうにかなりそうだった。
自分も兄のように殺されるのか。そう思うと好き勝手されるこの状況が恐ろしくもあり、吐き気がした。
屈辱だった。
花戸がいない間に手足の拘束が外れないか必死に藻掻く。関節が外れそうなほど暴れても手足が擦れ、痛みが増すばかりで拘束が緩む気配がなかった。
「っ、くそ……!」
吐き捨て、口の中に溜まった唾液を吐き出した。呼吸をする度にあの男の味が広がり、具合が悪くなる。
……とにかく、冷静になろう。
逆に考えるんだ、この状況はチャンスなのだと。
あの男は自ら口にした、兄を殺したのは自分だと。
最初は信じられなかった……けど、今となっては分かる。あの男の行動に躊躇はない。迷いもない。人に危害を加えることを、人の尊厳を踏みにじることに何も感じない男なのだ。
乾いた眼球で部屋の中を見渡す。
花戸の部屋なのか、学生の一人暮らしにしてはあまりにも広い寝室、そして大きなベッド。
あの男が本当に兄を殺したというのなら、やつの部屋のどこかにその手掛かりがあるはずだ。それを見つけて警察に届ければ花戸は逮捕される。
それに、俺が帰らないと分かったら家族も学校も心配して俺のことを探してくれるはずだ。
希望が見えてきた。
嘆いてる暇はない。とにかく、手掛かりを探さないと……。そう思うがやはり拘束が邪魔だった。ベッドの上、顎と上半身を使って汚れたシーツの上を芋虫のように這いずる。
匂いが酷い。不快感もあるが、今はそんなことを言ってる場合ではない。
ベッドの縁まで移動したときだった。ずるりと体がベッドから落ちるのと、寝室の扉が開くのはほぼ同時だった。
「っ、う……ッ!」
床の上。顎から落ちてしまい、ろくに着地も取れずに蹲る俺を見て花戸は目を丸くした。
「っ、間人君、大丈夫?!」
そして、顔を青くした花戸は慌てて俺の元へ駆け寄る。自分だけ服を着替えてきたらしい。俺の体を抱き起こしたやつは俺の顎をそっと触れる。
「ああ……赤くなってるね。痛かっただろ?何か冷やすものを持ってこよう」
「っ、……いらない」
「駄目だ。待ってて」
言うや否や、再び俺をベッドの上へと抱き抱えて下ろした花戸はそのまま部屋を出ていった。
痛みはあるが大したものではない、アザにもならない程度なのに。再び部屋を出ていく花戸。
そしてすぐ、濡れたタオルを手にしてやつは戻ってきた。
「間人君、こっちを向いて」
「……」
口を聞くのも嫌だった。顔を逸らそうとすれば、後頭部を掴まれて強引にでも花戸の方を向かされるのだ。そして「少し冷たいよ」と、冷やされた濡れタオルをそっと患部に押し当てられる。
「……っ、ぅ……」
「手足も赤くなってる。……もしかして、拘束外してほしいの?」
図星だったが、素直に答えたくなかった。無言で視線を外せば、「まあそうだよね」と花戸は呟いた。
「……俺も、君にこんな真似はしたくないんだけど……間人君、君、こうしないと逃げるだろ?」
「……っ、当たり前だ、こんな……ッ!」
まるで自分は悪くないとでも言うかのような物言いに頭がカッとなり、気付いたときには口にしていた。言ってからしまった、と思ったが花戸は怒るわけでも気を悪くするわけでもなくただ悲しそうに微笑むのだ。
「だからだよ。……俺はなるべく君に手荒な真似はしたくないんだ」
暗に逃げ出すのなら殺すとでも言われてるようで、釘を刺すような花戸の視線に言葉に詰まった。
水代わりに小便を飲ますのは手荒な真似ではないのか。言い返したかったが、花戸の目を見ると何も言えなくなった。
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