中年ヒーローごっこ

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「まーたお前と、二人っきりになっちまったな」 俺の原点とも言うべきボロ布を拾って、思わず話しかちまったよ。 物に話しかけるとは……今の俺の精神状態は相当にヤバいらしい。 勿論、つい先日まで一緒に暮らしていたというのは、コイツの事じゃない。 確かに大事ではあるが、かつてここに居た人とは比べるべくもない。 ここで一緒に過ごしたのは、同棲して5年、付き合って10年になる恋人だ。 いや、だったか。 今はこの部屋から無くなった物達と共に、新居で俺を待っているのだ、 俺の妻として。 そう、目の前にある極上の幸せを前にして、浮かれ、テンションが可笑しくなっているっていうわけだ。 …………つーのは冗談。 別れたんだ。とういうか、出ていかれた。 勿論、愛想を尽かされてさ。 仕事から帰って来たらこの状況だ。 だからさ、ぶっちゃけ、明日からどうやって生きていっていいかわからない。 今なら、この気持ちを埋めてくれるなら、 それが嘘でも、詐欺でも直ぐについて行ってしまうだろうと思う。 その自信があるよ。 何にもない部屋と、何にもない俺の心は、直ぐに収穫の季節が来るってのに、実れるようなモノは何もない。 そんな空っぽを感じると溜め息ばかりが出た。
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