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劇団に所属してから5年。
鳴かず飛ばずではあっても、なんとか少しずつ来てくれる知り合いを増やして、少しずつチケットが捌けて形になって来た時期、そんな時に出会ったのが、天使ちゃんだったわけだ。
その5年間、時間と金で散々苦労していた俺は、献身的に尽くしてくれる彼女にすっかり夢中になった。
よくこのアパートに来てくれて、料理は作ってくれたし、決して多くない給料なのに、毎度チケットは買ってくれるし、時間のある時はわざわざ足を運んで見に来てくれて…………。
そうなると、食費は全然浮くし、チケットは少しずつお金になるしで、彼女が傍にいてくれるようになって確実に時間とお金に余裕が出来てきた。
それから何年か付き合って、一緒に暮らす様になってからは、それは尚更に顕著だった。だからさ、それまで、クソみたいな現実を送ってた俺が、舞い降りた天使に夢中になって溺れて、甘えっきりになって行くのは必然だったわけさ。
つってもさ、でも見損なわないでくれよ?
役者を極めようって情熱を失ったわけでもないし、ギャンブルにも女にも溺れたわけじゃないぜ?…………いや、何度か浮気はしちゃったけど。
最低だよな。わかってる。
ただ、あの時のことはどうしょうも無かったとも思うし。いや、こうやって100%には自分の否を認められないのが俺の限界だとも思う。
後は酒の勢いとか、ちょっと喧嘩してたりとか……すいません。
でも、そんな状況になると、最初の5年間に持っていた、ハングリーさというか、なにクソって気持ちは確実に弱くなった。
で、最悪な事に、その分、増えたのは言い訳だ。
やれ奴は親の力があったからとか、運が良すぎるとか。役者なら、人間性じゃなくて実力で役を勝ち取れとかね。
確かにこれらの中に真実も多分に含まれている。
七光りなんていうのはその典型だし。業界の中身を知ると、びっくりするぐらいそういうのがまかり通ってたりする。
それは大手っていうか、デカいとこほどね。
そういう恵まれた奴が成功して行くのを見て、その度に毒を吐いてた。
でも、今なら、断言できる。
そんな時間が一番無駄だったって。
そういう現実と、自らがストイックにやることには何ら関係ないし、そんな事に言葉を使うなら、傍らにいる彼女になんでもっと優しい言葉や感謝を伝えなかったのか。
どうにもならない他人の事に気を取られて、時間を取られる事ほど無駄な事はない。
なら、同じ時間を使って、大事な人に大切な言葉を伝えること、少しでも自分を向上させること、そっち方がよっぽど有意義な時間の使い方だ。
結局、人間は与えられた環境と、自分の手札でやり繰りするしかないんだからさ。なら、目の前にいてくれる人を大事にして、自分の向上に時間を使う方が断然いい。
でも、そんな当たり前の事を、全部失くしてから気づくなんて、
何て俺は馬鹿で愚かなんだろうかね。
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