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02[END]
荻原空翔にとって、性交渉とは本来ならば好きあったもの同士、真っ当な付き合いをした上で段階を経て行う神聖な行為だった。物心ついたときから両親の手から色事というものや男女間の交友について避けられてきたのもあるが、だからこそ荻原は避けてきた。
それを今、この男――琴峯楓によって何もかも覆され、踏みにじられている。
「ん、ぅ……ッ!」
気付けばソファーに踏ん反り返る琴峯の膝の上に向き合うような形で座らされ、咥内を舌でかき回されていた。
粘膜という粘膜中を琴峯に舐られ、侵食され、塗り替えられる。それが恐ろしくて、それ以上に先程琴峯の性器を咥えたことで口の中に残った残滓を琴峯自身に味わせることに躊躇い、拒もうとするが力の差は大きかった。
昔は体格差はなかった。力の差もそうだ。それでも今は、華奢に見えてがっしりと筋肉のついた腕で腰を抱かれれば立ち上がることすらできず、後頭部を掴まれ、更に奥深く喉奥まで舌で犯された。呼吸すらもままならず、陸にも関わらず溺れそうになる荻原を琴峯は鼻で笑う。
「口の中くっせえ……ッ、よく好きでもないやつのチンポフツーに舐めれるよな。俺なら絶対無理、やっぱおかしいよ、お前」
「っ、ふーッ、ぅ゛……ッ! ひ、ぅ、」
キスに気を取られている間にベルトを引き抜かれ、あっという間に下着ごと脱がされ下半身を露出させられる荻原。無駄のない引き締まった下腹部とは言えど、あまりにもその姿は間抜けに思えて恥ずかしかった。必死に隠そうとする荻原に口元を緩めた琴峯はそのまま剥き出しになった臀部へと手を降ろしていく。
硬く筋肉質な尻の肉だが指を沈めれば程よく弾力があり、その揉み心地のあまりに次第にその手付きは荒々しいものとなる。
「っ、こ、とみね……ッ」
「……ッ、……」
「っ、は、ぅ……ッ!」
尻の割れ目を大きく開かれ、硬く口を閉じた肛門が剥き出しになる。
自分でも見たことのないような場所を琴峯に見られ、そして弄られている。それが酷く恐ろしく、それと同時に背徳感を煽られた。
琴峯は荻原の口に指をねじ込み、その咥内に溜まった唾液を絡み取る。そのままちゅぽんと音を立て、糸を引いて抜かれたそれを肛門へと押し当てた。硬く、骨張った琴峯の指は唾液を潤滑油代わりにして窄みへと埋め込まれていく。
「……ッ、ふ、ぅ……ッ」
渇いた内壁を引っ張るような痛みに堪らず喘げば、琴峯は笑った。琴峯は苦しがる自分を見て楽しんでいる。何故琴峯が自分のことをそれほどまでに嫌ってるのか荻原には理解できない、それでも少しでも気が紛れるのなら、それが恩返しになればいいと思って堪えた。
「ッ、は……ッ、く、ぅ……ッ」
最初は入口と、その付近の内壁を解すように中を捏ねられ、揉まれ、広げられた。腰が震え、奥歯を食いしばって耐えようとするが自然と目の前の琴峯にしがみつくような形になってしまう。
嫌がられるかもしれないと思ったが、琴峯は何も言わない。それどころか、二本目の指を入れるのだ。
痛みよりも息苦しさの方が勝った。薄暗い部屋の中に自分のうめき声と下腹部からの濡れた音が響く。ぬちぬちと音を立て、丹念にほぐされる。
最初は苦痛しかなかったが、それでも呼吸の仕方や力の抜き方を覚えればそれ以外にも気を向けることはできた。
この男の元へ来て、どれほどの時間が経過したのか荻原には何もわからなかった。
気付けば中を蠢く指は二本から三本へと増え、指の付け根まで咥え込むようになった下腹部は琴峯の指の動きを鮮明に感じ取れるようになったほどだった。臍の裏側を捏ねられると脳の奥からどろりとした熱が溢れ、たまらず声が漏れた。指の出し抜きに耐えきれずに小刻みに痙攣する下腹部、勃起したままの性器が痙攣に合わせてぶるぶると震え、内腿に当たる。
「っ、ふーッ、……ッ、ぅ、……ッ、ん……ッ、ぅ……ッ」
「……」
「ッ、ん゛、ッ、ふ、……ッ、ぐ……ッ」
耐えなければならない。琴峯のためにも。
なるべく不愉快にはさせたくなかった。琴峯が何をしたら喜ぶのかわからない、それでも自分の声を聞くと琴峯は嫌がるのではないかと必死に手の甲を噛んで声を殺した。
勃起した性器からはどろりと先走りが垂れていた。琴峯の服を汚さないようにしたかったが、己の体を律することができるほどの余裕も経験も自分にはなかった。カクカクと琴峯の腹部に腰を押し付けてしまいそうになり、必死に腰を離そうとするが背中へと回された琴峯の腕がそれを許さない。琴峯にしがみついたまま、何度目かのに絶頂を迎える。びりびりと腰が震え、どろりと先走り混じりの精液が琴峯を汚した。
「……ッ、は、……ふ……ッ」
「…………」
「っ、こ、と……みね……」
力を入れることすらできなかった。ぐったりとしているところを琴峯の腕に抱き抱えられる。包み込むような琴峯の体温に安堵したのもつかの間、散々指で解されぽっかりと口を開いたままの肛門に指とは比にならないほど硬く嵩を張った亀頭を押し当てられるのだ。
男女の性行為すらも知らない、男同士で性行為ができることなんてもってのほかだ。まさかそこにと驚く暇もなく、琴峯は荻原の腰を掴み、己の性器の上に座らせた。
声を上げることすらもできなかった。目を見開き、近所のようにぱくぱくと口を開閉させる荻原はあまりの圧迫感、そして衝撃に堪らず琴峯にしがみついた。琴峯はそんな荻原に満足そうに目を細め、息継ぎの暇すら与えぬとでもいうかのように下から思いっきり突き上げるのだ。
「――ぁ゛ッ、ひ……ッ!」
びくんと大きく仰け反り、逃げようとしていた荻原の腕を手綱のように引っ張り更に奥へと亀頭を埋め込む。筋の浮かんだ荻原の腹部がびくんびくんと痙攣する。目を見開いたまま息すらできないと藻掻く荻原に、琴峯は唇を重ねた。
キスというよりもそれは捕食に近い能動的なものだった。薄皮に覆われたその唇に歯を立て、唾液も酸素もまとめて奪い取る。脂汗を滲ませ腕の中で痙攣する荻原を捉えたまま、性急に、本能のまま琴峯は荻原を犯した。
いつもの笑顔も、真っ直ぐな瞳もない。生理的な涙を滲ませ、やめてくれと頭を振ってしがみついてくる荻原は正しく琴峯が求めていたものだった。
琴峯楓にとって、己が油ならば荻原空翔は水のような存在だった。
幼い頃からこの男とは本能的に合わないことを琴峯は理解していた。
まずあまりの暑苦しさが嫌いだった。過干渉も許せなかった。それを伝えても、荻原は何一つ理解しない。荻原のような鈍感で厚かましい人間が嫌で、琴峯はわざと荻原が自分から遠ざかるように己から作り変えた。
荻原が嫌いなものになれば、この男も自分に近付いて来ないはずだと思ったからだ。
なんだってよかった、この男がいなくなるなら。
そして思惑通り、中学に上がれば周りの人間はがらりと変わる。そこに荻原の姿はなくなっていた。
「ッ、ぉ゛、ッ、ふ、ぅ゛……ッ!!」
「アハッ、汚え声……豚みたいに鳴くじゃん、なあ空翔君……ッ!」
「っ、ひ、ぃ゛ぐ……ッ!!」
打ち込む。腰を叩き付ける度に荻原の体は大きく反応するのが面白くて、堪らなくて、夢中になって琴峯は荻原の奥の奥まで亀頭で貫いた。この挿入してから既に何度か絶頂を迎えているのだろう、痙攣の収まらない内壁に性器を締め付けられる感覚は琴峯を余計昂ぶらせた。
荻原が自分と違う人種だと分かっていた。だからこそ余計、許せなかった。自分だけ綺麗な顔をして、何も知らない顔をして手を差し伸べてくる荻原が。
――だから、数人に囲まれている荻原を見たとき、酷く興奮した。
最初は助けるつもりなどなかった。ほんの少し、魔が差した。お礼など最初からほしくもなんともない、意味なんて為さないのだから。
「はっ、つばさく……ッ、ん、ッ、ふ、ははッ、やば……っ、その顔妹ちゃんに見せらんないねえ〜?」
「っ、はーッ、ぁ゛ッ、ふ、……ッ、ぅ、……あ゛……ッ」
「空翔君分かる? ……ここ、臍の裏側、ここをさぁ……チンポのカリでこぉ〜やってゴリゴリって引っ掛けてやると死ぬほど気持ちよくない?」
「あ゛ッ! ぁ、あ、いやだ、ことみ゛ね……ッ、ぅ゛、ふ、ぅう゛……〜〜ッ!!」
どちらのものかともわからないほどの体液が飛び散る。それでも無視して、荻原の前立腺を集中して刺激する。いやいやと子供のように頭を振る荻原の顎を掴み、そのまま唇を塞げばその汚い喘ぎ声もくぐもった悲鳴へと変わった。
舌を絡め、逃げようとする後ろ首を掴む。舌の付け根ごと捉えれば逃れられない。口を閉じることすらできず、とろりと唾液を垂らす荻原の目は焦点が合っていない。そんな荻原を見て、初めて琴峯は目の前の男が愛おしく思えた。
舌の裏側の粘膜をなぞれば荻原の中は自分を締め付けてくる。拒もうともせず、それどころか拙いながらも必死に応えようとしがみついてくる姿は滑稽で、可愛い。それを死んでも口にするつもりはない。
呼吸が上がる。己の射精が近付くのを感じ、琴峯は更にピストンの間隔を狭めた。混ざり合う吐息。恐ろしいほどお互いの体温が高くなっている。それでも嫌ではなかった。
――もしかしたらずっと、このときを待っていたのかもしれない。
汚れを知らないこの男を、自分の手で汚すことを。
咥内、声を上げる荻原に舌を噛まれながらもぼんやりと琴峯は考えていた。
「……ッ、零すなよ」
小さく囁きかけたときだ。どくんと大きく脈を打ち、荻原の体内奥深くへと射精しながら琴峯に己の血を飲ませた。
――数日後。
「ッ、ぁ……ッ、こ、ことみね……ッ、」
「……空翔君さあ、お前、いつまで経っても成長しないよなぁ〜?」
「っ、そ、んなこと……ない……ちゃんと、練習したんだぞ」
「……ふーん? その割に全然上手くなってないけど? それってただ浮気しただけだろ」
「……っ、う、浮気は……してない、ネットでその、映像から学びを得ようとしただけで……」
「…………はぁ」
「な、なんで溜息吐くんだ……?!」
あれから琴峯のおかげか、嫌がらせも妹に対するストーカー行為もぴたりと止んでいた。
琴峯は別に何もしていないと言ったが、荻原には分かっていた。こうして琴峯と一緒にいることが抑止力になっているのだと。
普段から素行がよくない琴峯だが、それでもやはり根は昔と変わらずいいやつなのだと荻原は確信していた。
だから、こうして琴峯に呼び出されては体を弄ばれようとも、道具のように犯されようとも、性処理道具として使われようとも抵抗はなくなっていた。
そして前回のように琴峯にフェラを頼まれたのだが、相変わらずもたつく荻原にとうとう琴峯の痺れがキレる。鼻を摘まれ、呼吸を止められそうになった矢先開いた口にそのまま性器をねじ込まれる。顎が外れそうなほどの質量にぎょっと目を見開けば、目の前、琴峯は笑っていた。
「……見て勉強したってなんもなんねえよ、それなら俺で練習すりゃいいじゃん?」
「っん゛ぉ、゛ッ、ごぶッ」
「そーそー……ッ、歯ぁ立てないように優しく可愛がれよなぁ?」
「ん゛……っぶ、ッふ、ぅ……ッ」
そうゆるく喉の奥へと性器を突き立てるように腰を動かす琴峯。その度に口の中で唾液と先走りが混ざり合い、泡立ち酷く吐き気を催したが、荻原はそれを必死に堪えて受け止めようとした。
普段凛とした荻原が自分の性器を頬張り、不細工に歪める。そんな荻原の顔を見てると、琴峯は己が満たされているのが分かった。
水と油。それでも、どろどろに汚れきった汚水ならば。
嗚咽の度に性器全体を締め付けられ、琴峯は吐息を漏らす。そしてピストンの速度を早め、そのまま苦痛で顔を歪めた荻原の喉奥に射精した。
一滴も零さないよう、必死に喉奥へと落とす荻原を見詰め、琴峯は一人ただ笑った。
「――またよろしくな、空翔」
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