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01
「空翔君さぁ……自分から言い出したんだよねえ? 何でもするって」
「……っ、……あぁ」
「どんだけコレ、やるつもりなの? 俺も暇じゃないんだけど?」
「……わ、分かってる……」
けども、と目の前のそれを見上げ、息を飲む。
鼻先に当たるほどの至近距離にあるのは肉色のグロテスクな性器だ。いくらトイレでちらりと見かけることはあると言えど、こんな風に間近で見たことなどなかった。
この男のことは幼い頃から知っていたはずなのに、目の前にあるそれはまるで自分のものとは違う。直視し難いほどの視覚的暴力、それにも関わらず視線すら逸らすことができない。
荻原空翔は、幼馴染の琴峯楓の股ぐらの間に膝をついたまま固まっていた。
事の発端は一週間前、今年高校生になったばかりの二つ下の妹が変な男に付きまとわれていると聞いた荻原は感情のままストーカー男を成敗する。それからだ、ストーカー男の仲間に付きまとわれることが多くなり、挙げ句の果妹へのストーカー被害もエスカレート。
そしてこのままではいけない、悪を成敗してやると突撃したのが今日。結果、返り討ちに遭いそうになったのをたまたま通りすがりのこの男――琴峯に助けられたのだ。
幼稚園、小学校ではよく遊んでいたものの中学に上がってからは髪を染め、妙なやつらとつるむようになり次第と疎遠になっていた琴峯だったが、そんなことも関係なくストーカー男と仲間たちを成敗し、自分たちを助けてくれた琴峯に酷く感動した荻原は勢いのまま「お礼をさせてくれ、金以外のことならなんでもする」と申し出たのだ。
琴峯はそんな荻原に対し面倒臭そうにその明るい茶髪を掻き上げ、「じゃあ」と口を開いた。
――じゃあ、フェラしてよ。
「っふぇ、フェラ……と言われても、俺はお前の満足するような結果を残せるかどうか……」
「声震え過ぎだし、元々童貞にテクとか期待してねえから」
「ど……ッ、なんで、そのことを……ッ!」
「そりゃ、お前見てたら分かるっしょ。フツーに。小さい頃から妹妹いもうと〜って、周りの女は眼中に無し。そんな空翔君が彼女できるわけねーじゃん?」
気怠そうに息を吐き、荻原の頬に手を伸ばした琴峯は嘲笑う。軽薄な口調だが荻原にとっては鋭い刃物も同然だった。言葉に詰まっていると、「だーかーら」と琴峯はその頬に亀頭をびたんを押し付けるのだ。
「……っ、ぅ……!」
「嫌がらせだっての、分かる? ……別に俺は最初からお前に気持ちよくしてほしいとか思ってねーんだわ」
荻原の硬質な短髪を後ろへ撫で付けるように触れた琴峯は「空翔君」と甘く、優しく囁きかけた。ピアス穴一つもないその耳朶の凹凸を指でなぞられ、荻原はびくりと全身を硬直させる。琴峯、と開きかけたその唇に亀頭を押し付けるのだ。
「っ、ん……」
「ほら、咥えろよ。……空翔君、早く帰って妹ちゃんに元気な姿見せてあげないと心配するよ?」
「……っ、……」
口を閉じれば自然と鼻腔が開く。息を止めようとすればするほど息苦しなり、返ってその独特の匂いを嗅いでしまう。鼻腔から咥内、器官へと広がるその匂いに頭の奥がクラクラするようだった。
琴峯の言うとおり、荻原には性経験はない。年頃の同級生たちと比べても性に対してあまり関心はなく、寧ろ『これはよくないものだ』とざっくりとした理由で遠ざけていた節すらあった。
そんな荻原を知っていて、この男はこのような行動に出たのだ。だとしても、荻原にはその理由が分からなかった。
けれど、感謝の気持ちも確かにあった。なによりいくら疎遠になっていても、いい噂の聞かない男であっても、荻原にとって琴峯は幼馴染であり、友人で――そして恩人だった。そう考えると嫌悪感は薄れた。
唇を開き、目の前の亀頭を一生懸命咥える。亀頭全体を含めようとするものなら顎が大きく開き、息苦しかった。流石にこれ以上は飲み込めない、そう判断した荻原は息苦しさを紛らわすように咥内のそれにちろりと舌を這わせるのだ。
「……ッ、ん、ぅ……」
「………………」
「ッ、ふ……ッ」
唾液を絡めるようにカリ全体に舌を這わせる。琴峯は息を乱すことなく、ただじっと熱心に自分の股間に顔をうずめ、性器を頬張る荻原の頭頂部を見詰めていた。
技巧などもない、唇や頬の裏、舌、使えるもの全てを使ってただ目の前の琴峯の性器にしゃぶりついた。それでも咥内の琴峯のものは確かに先程よりも硬度を増し、咥内を内側から圧迫するのだ。
唾液にしょっぱい味が混ざる。粘度を増し、口の中で舌を動かすたびに荻原の咥内で下品な水音がぐちゃぐちゃと絡み合う。
「っ、き、もひ……いいは……?」
「……全然よくない、てか、少しは嫌そうな顔くらいしろよ。お前ホモなの?」
「……っ、だって、おまえは……」
恩人だから、と言いかけたとき。
琴峯は深く息を吐き、そして荻原の頭を掴んで無理やり自分のモノを吐き出させた。ぶるりと揺れ、唾液と先走りで濡れた性器が現れる。
「あー……いいから、そういう寒いのは。昔から思ってたんだけど、お前よくそんなんで今まで生きてこれたよな」
琴峯の言わんとしていることが分からずきょとんとしていると、琴峯はそのまま傅く荻原の腿の隙間、その股間に爪先を向ける。そして、スラックスの上からでも分かるくらい主張しているその下腹部を柔らかく靴底で踏付けた。
荻原は、琴峯が本気で踏み潰すつもりはないのだと分かっていた。それでも男としての弱点をこうして圧迫されると自ずと恐怖が沸き立つ。
「ッ、こ、とみね……?」
「…………次はこっち。マゾで男好きな空翔君ならできるだろ?」
「……な、にを……」
「脱いでよ、ここで」
早く、とその形のいい唇が歪み、薄い笑みを浮かべた。本心の読めない冷たい眼差しに荻原は戸惑った。
「っ、……そ、れも、俺に対する……嫌がらせなのか?」
「そーだけど? できないなら別にいいけど、一応フェラっていう約束はもう済んだんだし」
「……っ、お、お前は……俺のことが嫌いなのか? ……だから……ッ」
「あーもう、うるさいなぁ」
困惑し、足元に縋りつく荻原に対し琴峯は苛ついたように自分の髪を掻きむしる。そして荻原の顎を掴み、その目を真正面から覗き込むのだ。
「嫌いだよ。――ほら、これで満足した?」
あくまでも迷子の子供を諭すような柔らかな口調ではあったが、その口から吐き出された言葉は大きなナイフとなって荻原の胸を貫いた。
少なくとも、琴峯が自分を助けてくれたのは少なからず自分のことを思ってくれていたからだと思っていた。自惚れだとしても、どれだけろくでもないやつと言われていようが琴峯の良心を信じていたかった。
それを、琴峯の手によって自ら崩される。
「……っ、琴峯……」
フェラをしろと言われたときよりもショックを受けている自分がいた。目の前の男が何を考えてるのか分からず、理解もできない。この男の望みは出来ることなら叶えてやりたいと思ったが、それでも琴峯にとっての願いは――。
「……やっぱいいや、さっきのナシ」
どうすればいいのかわからず、棒立ちになる荻原に琴峯は興味が失せたように深く肩を落とした。
そして、どういうことだ、と顔を上げた矢先だった。琴峯に胸倉を掴み上げられる。
そのまま強い力で引っ張られたと思った次の瞬間にはすぐ目の前には琴峯の整った顔が視界いっぱいに映り込んでいた。
一瞬、何が起きているのか理解することができなかった。唇に何か柔らかいものが触れたと思ったとき、そのままやつの口から覗く赤い舌にべろりと唇を舐め上げられるのだ。
「こ、とみね……ッ?」
キスをされたという意識すら荻原にはなかった。
琴峯の言動に振り回され、脳の処理が追いつかない。目の前の男を見上げれば、琴峯は変わらない調子で溜息とともに言葉を吐き出すのだ。
「……やっぱお前、ムカつくからこのまま犯すわ」
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