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主人公ではないとはいえ、ラフテルという令嬢の役は十分すぎるほど重要なポジションである。それを、去年まで裏方ばかりでほとんど舞台に立たなかった二年生に任せるのは、なかなかハードモードなのではなかろうか。演技をするのは嫌いではないし抜擢されたのが嬉しかった気持ちもあるが、ほぼ初演の舞台がいきなり本番中の本番、秋大会だなんて無茶もすぎるところである。
皆の多数決によって決まったので、喜びこそすれ文句を言う筋合いがないのは分かっている。でも、私はどうして自分がこの役に選ばれたのかさっぱりわかっていなかった。地味な顔立ちのぽっちゃり系(と言えば聞こえはいいが、多分デブの範疇に入るだろう)、ブスというほどではないかもしれないがお世辞にも美人とは言えない容姿。それに加えて、演技力も凡人レベル。それが私、川村みどりという人間だった。
――私には、荷が重いってば。
そう。この役がもっと似合う人物は他にいたのである。同じ二年生で、美人でかっこよくて――そんな友人の、築山明日南。何故彼女ではなく、自分が選ばれたのか。先輩達の得票は彼女の方が多かったが、一年生と二年生が圧倒的に私に投票してきたのである。
どうしても疑問に思って、同じ二年生の魚沼香菜に尋ねたことがあった。彼女も明日南ではなく、私に投票した一人であったからである。
『私、ずっと脚本や音響ばっかりしてきて、舞台で演技したこと全然ないよ?なんで私に投票したの?大事な秋大会なのに……』
高校演劇の大きな大会は主に二つ。春の大会と、秋の大会である。本番は秋の大会であり、文化祭でお披露目するのもこちらの演目となる。恥ずかしい姿なんぞ見せられないのに、と私が困惑して尋ねれば。
『確かに、築山さんの方が川村さんより場数は踏んでると思うよ?でも、なんていうのかなあ……こなれすぎてて、初々しさがないっていうか。今回、初心なお嬢様の役が多いし、特にラフテルは彼女向きじゃないと思ったんだよね」
小道具メインで活動している彼女は、ひらひらと手を振りながら“頑張ってよ”と笑った。
『一生懸命なところがいいっていうか。なんだろ、うまく言えないけど……川村さんにはちょっと可能性を感じた人が多かったんじゃないの?投票したのが私だけじゃなかったってことは、そういうことじゃないかな。もっと自信持って頑張って!先輩達はアタリ厳しいけど、私はそこまで酷いと思わなかったし!』
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