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先輩たちは今でも、築山明日南がキャストにならなかったこと、特にラフテルを任されなかったことを疑問に思っているようだ。当然だろう。明日南は美人なだけじゃなく、誰が見ても圧倒的な“舞台を支配する才能”がある。それを外して、ズブズブの素人を舞台に上げる意味がわからないというのは当然のことだ。自分達の意見が、少数派だからと実質抹殺されたのも――そういう規則だったとはいえ、納得がいかなかったに違いない。
――先輩達が正しいよ。私なんかじゃ、ラフテルは務まらない……。
私はその日も部長にこっぴどく叱られ続け、先輩達からも厳しい駄目出しをくらい、とぼとぼと帰路につこうとしていた。今日は眠れないかもしれない、とさえ思う。本気で怒る演技、演技にならない演技というのがちっともわからなかった。笑ったり泣いたり、台詞の無い箇所よりははるかに簡単だとさえ思っていたというのに。
自分に足らないものは、何だろう。
そもそも本気で怒りを感じるとは、どういう感情なのだろう。
「よっ」
「!」
下駄箱でぽん、と背中を叩かれて慌てて振り返った。見れば明日南がにこにこと笑いながら立っている。男の子のようなショートカットなのに、本当に綺麗な顔してる、と思う。舞台上で化粧をして衣装を纏った彼女はさらに格別だから尚更だ。去年の秋、彼女が怪我して出られなくなっていなければ、と悔やまずにはいられない。
「元気ないね、みどり。まーあんだけ絞られちゃしょうがねえかあ」
「……うん。やっぱり、私じゃ力不足だなって思うもん。あそこに立つべきは、明日南だって。ていうか、明日南がただの照明係で終わるの勿体なさすぎるんだけど」
「またその話かよー。しょうがねえじゃん、投票で決まったんだからさ。つか、照明係だって大事だからね?そこ間違えんなよな」
「わかってるけどさあ」
一年生からずっと役者として抜擢されてきた明日南である。今年の秋でいきなり難しい照明係を任されてテンパっているのを私は知っていた。なんといっても、照明係は本番の会場で、機械をいじって初めて分かることが少なくないのだ。つまり、殆どぶっつけ本番。裏方に慣れていない人間に、しょっぱなから任せるべき仕事とは到底思えない。最初はスポット係か、せめて事前に練習ができる音響係をさせた方がずっといいというのに、みんなは何を考えているのだろうか。
完全に、私と明日南は得意分野が反対である。絶対逆のポジションにした方が上手くいくはずだというのに。
「明日南は悔しくないの。明日南の方がずっと実力あるのに、私みたいな超絶ドシロートに役取られたんだよ?」
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