舞台上のラフテル

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「まあ、得意でもなんでもないもの押し付けられたんだからしょうがないけど。あーすっきりした。これで秋大会までは、築山さんを舞台に上げないですむしさあ」 「ほんと、築山さんも反省しないよね。去年は自分の事故のせいでみんなに迷惑かけたくせに、まだ演劇部に居座ってるの意味わかんない。ちょっと演技うまいからってエラそうにしててさ」 「確かに、なんか女王様みたいですよね、築山先輩って」 「ほんとそれ。でもって、川村さんでしょ。あの人もあの人でちょっと脚本任されることが多いからって調子こいてんの。しかもあの人が脚本書くと、絶対築山明日南をいいポジションにねじこんでくるわけ。そりゃキャストは脚本の独断で決めないけど、読めば誰イメージして書いたかまるわかりだっつーか。友達贔屓ひどすぎてまじでウザい」 「あたしは裏方専門だけどさーそれでも見ててイラってくるのよね。二人揃ってやめてほしいけどうまくいくかな」 「少なくとも川村さんの方はやめるでしょ、あれだけ恥かいてんだからさ。でもって秋大会の舞台で笑いものにされたら、今度こそ身の程を知るんじゃないのー?」  あっはっは、と香菜たちの悪意のある笑い声が上がった。 「自分に才能あるかもーとか本気で思ったのかなあ?私達の組織票でラフテル役になっただけだっつーにね!」  ぐい、と腕を強く掴まれていた。明日南だ。私はその瞬間初めて、ものを考えるよりも先に体が動いたことに気づいたのである。  間違いなく、殴りにいこうとしていた。気に食わないからという理由だけで、才能があるからという嫉妬だけで、明日南を汚い手で舞台から下ろした彼女達を。 「駄目だ、みどり。暴力沙汰になってみろ、出場停止になっちまうよ」  私の手を掴む明日南も、鬼のような形相になっていた。 「気持ちはわかる。アタシだって、あんたを馬鹿にしたあいつらをぶちのめしてやりたい。でも、今はダメなんだ。無理やりにでも抑えとけ」 「明日南……」 「その怒りは、舞台にぶつけろ。……その様子じゃ、あんたにもわかったんじゃないか。本当の“怒り”ってやつがさ」 「……そう、かも」  私達に気づかないまま、愚者の集団はべらべら喋りながら遠ざかっていく。私は拳を握りしめ、ちくしょう!と小さく吐き捨てた。  ああ、今の瞬間だけは。ある意味で彼女達に感謝ができるかもしれない――そう思いながら。
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