舞台上のラフテル

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 ***  ようやく、分かったような気がする。大切なものを貶められるというのは、こういうことだというのが。  魚沼香菜も、後輩たちも。殆どが、キャストではなく裏方志望の少女たちだった。つまり、本来明日南はライバルでさえないのである。同じポジションを狙うから、目障りだから引きずりおろそうとしたわけでもない。ただただその才能への嫉妬のみ。相手を貶めて悦に浸りたいという悪意のみ。これがいじめでなくて、なんだというのだろう。  この世の中には、絶対に許してはならないことがあるのだと知った。  そしてそれは、暴力ではなく――別の形で正々堂々示すべきということも。そう、復讐だ。誰も殺さない復讐もある。私が大会で見事ラフテルを演じ切ることができたら、それそのものが彼女達に思い知らせる最大の刃となるのだ。 ――伯爵令嬢、ラフテルは。メイドの少女、テアのことを妹のように可愛がり、甘やかしていた。その結果テアは我儘な性格に育っていく。……大好きな姉のラフテルを、自分の嫌いな婚約者の元に嫁がせるのが嫌で、無理やり婚約破棄に持っていこうと目論むようになる。  婚約者より、ラフテルの家の方が身分が上。だからこちらから婚約破棄をすることは可能。ラフテルが婚約者のことを嫌いになるように、婚約者の悪い噂を屋敷中に流して回るのである。  やがて、その真実を知ってしまったラフテルが激怒し、みんなの前でテアをひっぱたく――そういうシーンだった。 「もう一度言ってみなさい」  “テア”を平手打ちしたあとで、“ラフテル”は低い声で語る。 「もう一度言ってみなさいよ。誰が女ったらしの売国奴ですって?」 「あ、あんな男!ラフテル姉様には相応しくありません!あたしにはわかります!あいつは、他の女性たちにも酷いことを言って……!」 「……っ!」  言い募るテア役の先輩に、今度はラフテルを演じるみどりも拳を握る。舞台の下で見守る演劇部員たちが息を呑むのが気配でわかった。――ああ、その顔がぐちゃぐちゃになるまで殴り飛ばしてやりたい。その気持ちが今ならわかるというものだ。  あの日、自分も香菜たちをぼこぼこに殴ってやりたかった。  大事な人の名誉を貶められる、傷つけられる。それがこんなにも許しがたいことだったなんて、あの日までは知らなかったのだから。 「ら、ラフテルだめよ!」
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