舞台上のラフテル

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 後ろから、ラフテルの姉が羽交い絞めにしてくる。ラフテルは暴れながら、お嬢様言葉も取っ払って叫ぶのだ。 「離して姉様!こいつは、こいつは平手じゃ足らない!ボコボコに殴ってやらなくちゃ気が済まない!あの人のこと、何も知らないくせに!あの人が差し伸べてくれた手のぬくもりも、優しい声も、手紙も、何も知らないでいい加減なことばかり言って!あれほど国を愛しているあの人を売国奴だなんて……許せない!こんなやつを妹だと思ってたなんてっ!!」  その言葉に、テア役の少女は膝から崩れ落ちる。あまりのラフテルの剣幕に怯えながら、同時に――悲しみの涙を流しながら。 「お姉様……そこまで、あの男のことを……?」 「あの男、なんて呼ばないで。私が世界で一番愛した人、チェーザルよ」  恥を知りなさい、とラフテルは、みどりは一括するのだ。 「自分本意な願いのために、目的のためだけに。……人を貶め、傷つける行為がどれほど愚かなことか、理解しなさい。テア、あなた……心当たりもないのに自分が売女だと屋敷中に噂を広められ、みんなに後ろ指を指されるようになったらどう思う?それがあなたをこの屋敷から追い出したい誰かの陰謀だったなら許せる?……あなたは今、同じことをしたのよ」  誰かの立場になってものを考えろ。  人は何故幼稚園でもならうような、そんな当たり前のことさえもできなくなってしまうのだろう。  それは人が人であるために、とても大切な考え方だというのに。 「……カット」  手を叩いて、部長が演技を止める。ほっと息を吐いた私に、彼女は小さく笑みを浮かべて言ったのだった。 「何かあったの?……ちょっとはマシになったじゃない」 「……ありがとうございます」  多分それは、彼女なりの最大の賛辞だろう。私は舞台の上から、小さく明日南に手を振ってみせた。動揺する香菜たちの横で、明日南は小さく親指を立ててみせる。 ――私は、明日南にはなれない。でも……私にしかできないことを、精一杯やることができる。私達こそ正義だと、あいつらに示すためにも。  さあ、今こそがスタートラインだ。  勇気を出して、一歩前へ。
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