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舞台上のラフテル
パン!と勢いよく手が叩かれて、私はびくりと動きを止めた。見れば部長が舞台の下から、険しい顔でこちらを見上げているではないか。
「足らない」
彼女は私を睨みつけて、はっきりとこう言った。
「川村さん。貴女の“怒り”の演技は、本当に演技で終わってる。見ている側がしらけるレベルって相当まずいと思うんだけど」
「え、え」
「ラフテルがどういう役か分かってる?今の状況は?彼女は大切なものを貶められて、本気で怒ってる場面なの。台詞をただ“書いてあるまま”なぞるだけじゃ、ちっとも想いが伝わらないわけ」
佐上高校演劇部は、一昨年は全国に行った。しかし、去年はまさかの地区予選落ち。今年こそは返り咲くべく、三年生は特に必死になっているのだろう。秋大会で抜擢された演者が二年生ならば、尚更一年生より質の高い演技ができて当たり前と思う気持ちはわかる。
そう、部長は悪くないのだ。理屈では私も理解していた。悪いのは、部長が望むような演技ができない自分なのだと。でも。
「す、すみません……」
一年生も見ている前で、そんな恥を掻かせるような物言いをしなくてもいいではないか。私は泣きたい気持ちで俯いたのだった。
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