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エピローグ
某日、都心にある廃墟ビルの地下にて。
「月見、まぁた引き篭もりかぁ?」
「引き篭もり扱いとは酷いな。……俺はただペットと遊んでるだけだよ」
「へーペットなぁ」
「この前連れてきていた人間か」
「えっ?! まじ?! プロトタイプ?! まだいんのかよ! すげー! 俺にも貸してよ!」
「嫌だね、君は扱い方が雑だから」
「馬鹿、殺すに雑も丁寧もねーだろ」
「殺さないでもらえるかな」
「え? まだ生きてんの?」
「そりゃあね、生きるか死ぬくらいのギリギリの状態を保ってるから」
「……悪趣味だぞ、月見」
「君達には言われたくないな。……それじゃ、上坂君の餌の時間だから」
「……エサ? なあ、あいつエサなんて持ってたか?」
「……いや、持ってない」
「まさか自分の肉やってたりしてなー」
「……有り得る」
「だな」
違反者月見嘉音の住処は都心の繁華街、その地下にあった。
違反者たちが集まるその地下街は勿論一般人には知られていない。寿命にも縛られない機械の体となってからは全員が全員、暇を潰すことに勤しんでいた。
己の体を強化して違法の闘技場で戦う者もいれば、それを観戦し、金を掛けるもの。肉体という制約がなくなった今、命は軽くなる。
違法チップは力を強化させるものだけではない、その用途も効能も無限大である。
それにも関わらず、力だけを強化しては殺し合ってる脳筋を見てると変わらないなと思った。
二十四時間数多の違反者で賑わうその地下を通り抜け、月見嘉音は人混みを避けるように裏路地へと回る。
そして、なにもなかった壁に触れた瞬間、月見嘉音の生体認証を感知したその壁に扉が現れた。それに吸い込まれるように踏み入れる。
月見嘉音は幼い頃から他人の干渉を嫌っていた。
だからこそ、自分だけの世界を、居場所を持つことが出来る能力を手に入れる事ができるチップがあると聞いた時、売人を殺してそれを奪うことにした。
その能力は期待以上のもので、誰も邪魔できない、邪魔させることない絶対的な世界が月見嘉音にとっての唯一の拠り所になっていた。
扉を開けば、広い空間が広がっている。
その部屋の中央、大きなベッドの上。
転がる少年の姿を見つけ、月見は頬を緩ませる。
先日拾った、対立組織に所属する少年。
忌々しい制服はすぐに捨て、今では刀どころか服すらも纏っていない。
確か、名前は。
「上坂君、ほらご飯の時間だよ」
声を掛ければ、猫のように丸まっていた上坂はゆっくりと上半身を起こした。
初めて会った頃よりも痩せこけたその体には昨夜の傷が生々しく浮かんでいるがそこがまた、月見の加虐心を煽るのだ。
ジッパーを緩め、上坂の目前に性器を取り出せば上坂は躊躇いもなく性器にしゃぶりついてきた。
「ん、んん、ん……っ」
「ふふ、そうがっつくなよ。……ほら、口を開けてごらん」
一瞬、上坂の瞳が揺れる。それも束の間のことで、すぐに言う通りに口を開いた。
「あーん」
そう、上坂の唇に亀頭を押し当てた月見は息を吐いた。
そして、
「ぅ、がッ!」
喉の奥へと直接尿を流し込む。
尿と言っても本来のそれとは違う、口からの摂取による体内に蓄積された不要な物質を液状化したものなのだが、生身の上坂にとっては尿以上に受け入れがたいもので。
頭を動かし、逃げようとする上坂の後頭部を無理矢理抑え付け、細い喉の奥まで性器を捩じ込んだ月見はそのまま直接喉奥へと尿を流し込む。
「んぶっ」
「全部飲み干すんだよ」
「一滴でも溢したらお仕置きだよ」と笑う月見に、涙を滲ませた上坂は眉間を寄せる。
止めどなく注がれるそれに焼けるように喉が熱くなり、飲み切れずに喉から溢れ出すそれに見る見るうちに青褪める上坂。
「……ッ」
そして、ぎゅっと目を瞑った上坂はそのまま月見の尿を飲み込んだ。
釣り目がちなその目を潤ませ、何かを求めるように見上げてくる少年に月見は息を吐いた。
「……良い子だね」
あのとき、自分に刀を向けた少年と同一人物とは思えないほどの従順さ。
だからこそ余計愛しく思えるのかもしれない。
傷だらけの頬に手を伸ばせば、とろんと目を細めた少年が自ら頬を擦り寄せてくる。
「上坂君、食べ終わったあとはどうするんだっけ?」
上坂は、もじもじと目を伏せ、そして、その小さな口を開いた。
「ごち……そうさまでした……」
退屈な世界、退屈な日常。
けれど、時たまにこのようにイレギュラーは現れる。
だからこそ、やめられない。
人を殺すことに抵抗はない。それでも人間かと何度も言われた。どうでもよかった。
殺した機械からチップを奪い、改造し、それを他人を使って実験する。
成功すればそれを売り捌いて新たな実験道具を購入することもあったし、自分で使うこともあった。
この少年は、どうしようか。機械化することは安易だが、それでは詰まらないと思った。機械の心は壊れない。けれど、プロトタイプは不完全だ。
だからこそ、愛しく思えるのかもしれない。
そんなことを思いながら、機械の男は少年に口付けた。
【END】
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