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「その面にも、何か理由があるのか」
仙太が得意げな笑みを浮かべた。
「この辺りにいる人間で、面をつけている者と、子供は襲わない。鬼との取り決めだ」
「村の人たちは知らないんだな」
「勿論。ただ、お前が鬼を退治してきたからね。今後はわからないなぁ」
「わかっていて、俺を行かせたのか……村人に俺が鬼子だと教えたのも、お前か」
「そうだよ」
「──では、お前は、鬼子を育てた仙遊の子だ。お前にも、もう、帰る場所が無いのではないか?」
尋ねる自分の声が震えていた。
この期に及んでどうして仙太の心配をしなくてはならないのか。
でも。
仙太が軽く頷いた。
「だから、鬼と取引をした。お前を鬼に差し出せば、僕だけは助けてもらえる」
仙太が松明を岩場に立てかけた。すらっと刀を抜く。
月や松明の光を反射してよく光る緩い弧は、仙太の笑顔の一部に見えた。
急に、共に修行した日々が懐かしくなった。
「仙太」
僅かに切っ先が揺らぐ。
顔を強張らせた仙太に、笑いかけた。
仙遊さまが俺に刀を習わせたのは、仙太のためだ。だしに使われたのに、僻む気持ちは湧いてこなかった。
俺は十分、貰っている。仙太のほうが貰っていたようにも見える。それは、俺が受け取っても、受け取らなくても、きっと変わらない。
「お前も沢山貰っていたのに。もし俺が鬼ならお前に切られてやった。そうすれば、少しはわかったか?」
仙太が大きく表情を崩した。泣きながら笑うような、ぐしゃぐしゃの表情に、しょうがないやつだなぁという気持ちになった。
仙太は全部わかっている。わかっていて、どうしようもないのかもしれない。
痛みをこらえるように、仙太が笑う。
「大嫌いだよ、ギン」
「だろうな」
仙太が地面を蹴った。
俺は最後を悟った獣のように、じっと仙太の目を見つめていた。
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