3 逃げた先の、友人

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「その面にも、何か理由があるのか」  仙太が得意げな笑みを浮かべた。 「この辺りにいる人間で、面をつけている者と、子供は襲わない。鬼との取り決めだ」 「村の人たちは知らないんだな」 「勿論。ただ、お前が鬼を退治してきたからね。今後はわからないなぁ」 「わかっていて、俺を行かせたのか……村人に俺が鬼子だと教えたのも、お前か」 「そうだよ」 「──では、お前は、鬼子を育てた仙遊の子だ。お前にも、もう、帰る場所が無いのではないか?」 尋ねる自分の声が震えていた。 この期に及んでどうして仙太の心配をしなくてはならないのか。 でも。 仙太が軽く頷いた。 「だから、鬼と取引をした。お前を鬼に差し出せば、僕だけは助けてもらえる」 仙太が松明を岩場に立てかけた。すらっと刀を抜く。 月や松明の光を反射してよく光る緩い弧は、仙太の笑顔の一部に見えた。 急に、共に修行した日々が懐かしくなった。 「仙太」 僅かに切っ先が揺らぐ。 顔を強張らせた仙太に、笑いかけた。 仙遊さまが俺に刀を習わせたのは、仙太のためだ。だしに使われたのに、(ひが)む気持ちは湧いてこなかった。 俺は十分、貰っている。仙太のほうが貰っていたようにも見える。それは、俺が受け取っても、受け取らなくても、きっと変わらない。 「お前も沢山貰っていたのに。もし俺が鬼ならお前に切られてやった。そうすれば、少しはわかったか?」 仙太が大きく表情を崩した。泣きながら笑うような、ぐしゃぐしゃの表情に、しょうがないやつだなぁという気持ちになった。 仙太は全部わかっている。わかっていて、どうしようもないのかもしれない。 痛みをこらえるように、仙太が笑う。 「大嫌いだよ、ギン」 「だろうな」 仙太が地面を蹴った。 俺は最後を悟った獣のように、じっと仙太の目を見つめていた。
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