俺を名乗る電話

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「本日が入金処理の締め日です。経理の都合上、未入金と処理する訳にはいきません。待たせて頂いたとしても、十六時半迄にご用意頂けない場合は、致し方ありませんが懲戒処分の後、警察に被害届を提出せざるを得ません……ご理解頂けますよう」  遠回しの脅迫って訳だな? ほんの少し猶予を持たせる辺り、これも何か心理的な意図があるのだろう。  だか、そんな事はどうでも良い。十六時に現場に行って反対に同じ金額を脅し取ってやる。  このペン型の盗聴器で録音すれば証拠にもなる。 「わかりました。必ず伺います」  俺はそう言って電話を切った。  さて、少し早いが現場の下見を兼ねて家を出るとするか。  と……その間に両親が帰って来て、再びかかって来た電話に出てまんまと騙されては困る。  俺は固定電話の電話線をそっと引き抜いた。  真面目な両親がオレオレ詐欺に騙されて、本当に三百万円持って行ったのでは本末転倒だからな。 「これで大丈夫だ」  出掛けようと俺がリビングのドアを開けた瞬間、玄関を開け帰って来た母親と目が合った。
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