俺を名乗る電話

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 だがその瞬間、俺の腕にガチャリと手錠が嵌る音が聞こえ絶望に肩を落とした。 「十六時二十五分……住居不法侵入の容疑で現行犯逮捕する」  同時に隣で電話の受話器を置いた別の警官が言う。 「所持品から、この男の身元が判明しました。氏名は西村公造、四十五歳……。つい先週まで、そのボールペンに書かれている大阪の精神病院で入退院を繰り返しています……」  俺は交番に掛けてある壁時計を見上げた。  あぁ……もう十六時半か。何か約束していた気がするが忘れてしまった。  すると今度は交番の電話が、けたたましく鳴った。 「はい……どういう事ですか? 業務上横領? で、お名前は?」  受話器を耳に当てた警官は、何故か驚いたように俺の顔を見た。  だが俺には関係の無い事だ。 「もしもし……ちょっとキミ、その名前って……もしかして?」 【おわり】
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