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保育園を後にしてからのりっくんは、珍しいくらいに静かだった。視線がいつもより深く、より足元に落ちている。
身長差があるから、りっくんの表情は顔を覗き込まなければ分からないけれど、そこにはまだ険しさが残っているんじゃないだろうか。そんな気がした。
りっくんは一生懸命、何かを考え込んでいる。いつもの、帰り道のおしゃべりを忘れてしまうくらい。
「ちさ姉ちゃんは、誰にも言わないよ」
独り言のように、呟いてみる。もちろん、無理強いするつもりはない。けれどりっくんの小さな身体で抱えきれることなのか、純粋に心配だった。
少しの間を置いて、りっくんもまた呟くように言った。
「どうして男の子はスカートを穿いちゃいけないの?」
それは、正直予想していなかった質問だった。いつものように、『素朴な疑問』と朗らかに思っていいのか、判断に悩む。
今日のりっくんは、まず話の先頭に「どうして?」を持ってきた。その内容が内容だけに、前後の文脈が知りたかった。
口を開くのは、りっくんの方が一歩早かった。いつもより気持ち声のトーンを落として、りっくんは話し始めた。
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