りっくんは今日も

１．どうして嫌いな食べ物も残さず食べなきゃいけないの？

　私に「どうして？」「何で？」と疑問を投げてくるのは、りっくんだけでいい。

　それなのに今日、言われてしまった。と言っても、聞かれ慣れている質問ではある。

「運動神経抜群に良いのに、どうして千咲(ちさき)って文化部なの？」

　逆に聞き返したい。運動神経が良い生徒は運動部に入らなければいけない校則があるのかと。

　確かに、もう二年生だというのに未だに陸上部やらバレー部やら、その他運動部から勧誘を受けることがある。その度に私はこう言う。

「私は立派な被服部の部員です。引き抜きはやめて下さい」

　はっきりと断れば、話はもうそれで終わりだ。けれど、さっさとその場を立ち去ろうとする私の後ろ姿に向かって、大体の人は同じようなことを叫ぶ。

「被服部は幽霊部でしょうが！」

　それは確かに否定できない。必ずどこかの部活動に所属しなければいけないのがここの学校の決まりで、だけど部活なんてやりたくない、ダルい、遊びたい、人間関係めんどくさい、そんな生徒が籍を置くのが被服部だった。幽霊部員の温床と言ってもよかった。

　そんな実態なんて知らずに、純粋に裁縫が好きという理由で私は被服部への入部を決めた。それでも一年生の時はまだ良かった。二つ上の三年生の中で、活動に意欲的な人たちが数人いたからだ。けれど先輩達が引退してしまった後、活動場所である家庭科室に顔を出すのは私だけになってしまった。