りっくんは今日も

３．どうして男の子はスカートを穿いちゃいけないの？

　英単語帳を片手で開きながら、私は今日もりっくんが待つ保育園へと急ぐ。期末テストが押し迫ってきているのだ。けれどりっくんのお迎えは欠かせない。

　周りが勉強と部活を両立する中、勉強とお迎えを両立させる私。

　お母さん、お父さん、お兄ちゃん…家族みんな忙しいのだ。今はテスト前で多少忙(せわ)しなくなり始めているけれど、普段の私は比較的時間にゆとりがある。りっくんの言葉を借りれば、何てったって放課後の私はお化けなのだから。そこで自分から、りっくんのお迎え役を買って出た。

　天気は梅雨の晴れ間。園庭の所々に生まれている水たまりに、青い空が映っては時々光を反射させてきらりと光る。

　そして一際大きい水たまりのすぐ傍に、りっくんが立っていた。けれど様子がちょっとおかしい。とてつもなく険しい表情を浮かべて、どこかを睨んでいる。

　その視線の先を追うと、お母さんらしき人に手を引かれている男の子の後ろ姿。顔は見えなくても、その体格で誰なのかはすぐに分かった。あれはケンちゃんだ。りっくん、また何か言われたのだろうか。

　さらに近付いていくと、りっくんの背後に隠れるように、また別の男の子がいるのが見えた。とは言ってもりっくんはたんぽぽ組で一番小さいわけだから、どうしてもその小柄な身体からははみ出してしまっている。

　はみ出しているあの子は確か…あおいくんだ。眉を垂らして、今にも泣き出しそうな表情を浮かべている。