3.どうして男の子はスカートを穿いちゃいけないの?

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「その時までは全然気付かなかったんだけど、すぐ近くにケンちゃんがいて、僕たちの話を盗み聞きしてたんだ。ケンちゃん、いきなり後ろから大声で『えーっ、お前キモいんだけど!男のくせに!お前もしかして本当は女なんじゃねぇの、名前も女みたいだし』って…」  お迎えに来ていたお母さんには申し訳ないけれど、やっぱりケンちゃん、問題児だ。だからあおいくんの表情は、あんなに青ざめていたのか。きっと誰にも言えなかった秘密を、りっくんにだけこっそり打ち明けたのだ。 「僕、ものすごく腹が立って。あおいくんは気持ち悪くなんかないって言ったの。そしたら、『じゃあお前、こいつが明日スカート穿いてきたらどう思う?今まで通り普通に話せるか?本当に何にも思わないのか?』ってケンちゃんに聞かれて…僕、すぐに言い返すことができなかった」  俯きがちのりっくんの頭に、私はそっと手を乗せた。 「でも黙ったままは嫌だったから、『とにかく、悪口はだめだよ!それからこそこそ聞いてたのも良くないと思う!』ってケンちゃんに言った。けどそこでケンちゃんのお母さんがお迎えに来ちゃって、ケンちゃん、ニヤニヤ笑いながら結局そのまま帰っちゃった」  私と繋いでいないほうの手を、りっくんがぎゅっと握りしめているのが視界の隅に入った。その握り方から、相当力がこもっていることが見た目でも分かる。  悔しさのようなものが、小さな拳からは滲み出ていた。
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