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『半藤』と名字が彫られたプレートの下、家族四人分の名前が並んでいる。
お父さん、お母さん、新、そしてりっくん。
その表札を横目に、いつものように鉄製の門を軽く押し開ける。
レジ袋片手に、これもまたいつものように玄関のドアの鍵を開け、中に入る。りっくんのお迎え役を引き受けた今年の三月、合鍵は新からもらった。
りっくんからは「ちさ姉ちゃん」と呼ばれているし、その様子を見ている保育園の他の子どもたちも、おそらく私たちのことを当たり前のように姉弟だと思っているのだろう。
だから「りっくんのお姉ちゃん」と言われても、わざわざ訂正するようなことはしない。本当の姉ではないけれど、まあ、似たようなものだ。
じゃあ一体私は何者なのか。りっくんのお迎えという重役を仰せつかり、まるで自分の家のように半藤家に自由に出入りする私。その正体とは。
「あー、本当に来たのか。別に良かったのに」
キッチンに立ち、コップに麦茶を注いでいる新がそこにはいた。せめておかえりって言ってよ、なんて思ってしまったけれどそれはさずがに傲慢か。あくまでここは私の家じゃない。
ローファーを脱ぎ、これもまたすっかり履き慣れたスリッパにすっと足を入れる。
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