2人が本棚に入れています
本棚に追加
/61ページ
「どうしたのりっくん…?謝ることなんて全然ないんだよ。りっくんのこと大好きだから、心配するの。りっくんは悪くなんかないんだからね」
「じゃあ、お兄ちゃんは僕のことが嫌いなの?」
「…えっ?」
りっくんの瞳が、僅かに揺れている。それは、泣き出す手前の表情だった。
りっくんのさらさらの髪の毛をそっと触りながら、あくまで落ち着いて尋ねる。とは言え私の心も、揺れていた。
「お兄ちゃんに何か言われた…?」
「ううん、そうじゃないけど」
りっくんはそれ以上は言おうとせず、目を伏せて口を噤んでしまった。新、新め。と今度は対抗心ではなく怒りの炎を燃やす。
こんな幼気な弟を放ったらかして一体何をやっている。理由は分からないけれど、兄のことを思って今にも泣きそうな弟がここにいるというのに、何故兄は部屋に引きこもっている。来なくても良かったのにと口では言いつつ、結局私が来て好都合だったと心の中では思っているんだろう。
これはもしかして、将来結婚したら「仕事が忙しいから」「仕事で疲れてるから」なんてことを理由にして、家事を妻に押し付ける夫の典型なんじゃないだろうか。
これから先もずっと新の隣にいたいとは思っているけれど、そんな将来が透けて見えてしまったら正直少し憂鬱にもなってしまう。
…いけない、今私と新のことはどうでもいいのだ。問題はりっくんと新のことだ。
最初のコメントを投稿しよう!