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ノックをするのが面倒だったからそのまま問答無用でドアを開けた。何せ私は、新に対して腹を立てている。
けれど、ドアに背を向ける形で勉強机に向かっている新は微動だにしない。背後から近付いていくと、その耳にはワイヤレスイヤホンがはまっていた。ちょっとやそっとの物音じゃ確かに気付かないのかもしれないけど、ここまで無反応だと余計にいらいらしてくる。火に油を注いでいる状態だということを、新は全く分かっていないだろう。
と思ったところで、新はやっと顔をこちらに向けた。そして私の右手をじっと見て、言った。
「部屋間違えてるよ」
本気で言っているのだろうか。どうして新はいつもこの調子なんだろう。
「間違えるわけないでしょ。これはこの後りっくんの所に持っていくの。食べたくても新になんか食べさせてあげないんだから」
「…何怒ってんの?」
新はイヤホンを片耳だけ外し、不思議そうな表情でメガネ越しに私を見上げた。
普段はあまり思わないけれど、メガネを外した状態の新には、確かにりっくんの面影がある。やっぱり兄弟なんだな、と感じる瞬間の一つだ。
ただ、もう薄々バレているとは思うけれど、性格のほうははっきり言って似ていない。りっくんにはどうか、新のようなクール路線には進まず、今の素直なりっくんのまま大きくなってほしいと切に願う。
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