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「お兄ちゃんが、しばらく前からいっぱいお勉強してるのは知ってる?」
「うん、知ってるよ。勉強しなきゃなんだ、ってお兄ちゃんも言ってた」
「じゃあ、何でお兄ちゃんが勉強しなきゃなのかは知ってる?」
「何で…?えっと…勉強がすごく難しいから?」
「うん、そうだね。確かにすごく難しいみたい。でもね、それだとまだ、正解の半分くらいなんだ」
「…そうなの?じゃあもう半分って?」
私はベッドの端にそっと腰掛けた。ふと窓の方を見ると、レースのカーテンの向こうで、生い茂った葉が大きく風に揺れていた。葉擦れの隙間で、セミの声が聞こえた。今年初めてだ、と思った。
私がりっくんのお迎えに行くようになった頃、あの葉はもっと初々しかった。枝のあちこちで、薄桃色のつぼみが膨らんでいた。
そして花が咲き、満開の桜を見上げるりっくんの口は半開きで、それが可愛くて可笑しかった。花びらが降る道を、りっくんと手を繋いで歩いた。綺麗だね、と何度も言い合った。たった数ヶ月の間に、桜の木もすっかり衣替えしているようだった。
それだけの時間が過ぎているということに、ふとした時に少し驚いてしまう。
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