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「ねえ、アイス奢ってよ」
「ハーゲンダッツとかどうせ言い出すんだろ」
「あれは貴族の食べ物だもん。よれよれの恰好してる人にハーゲンダッツ奢れなんてとてもじゃないけど言えない」
「よれよれって言うな。物持ちがいいんだよ。いわゆるミニマリストだよ」
「…ちょっと違うような気がする。ガリガリ君の梨味がいい」
「安い女だな。でも確かにあれは美味い。っていうかもう梨味出回り始めてんのか」
「うん、もうそんな季節だよ」
私は腰を上げ、新と共に玄関へと向かう。
りっくんの分のアイスも買ってきてあげよう。りっくん、梨味って食べたことあるのかな。無いんだとしたら、全力で勧めて食べさせてあげたい。
そんなことを考えていたら、当の本人、りっくんが姿を現した。長い間横になっていたせいか、後頭部の毛先が所々ぴょんと跳ねていた。
「あれ、りっくん。どうした?」
「二人でお買い物行くの?」
そうだ、しまった。
一応という枕詞はついてしまっているけれど、新と久しぶりにデートをするという現実に心が完全に持っていかれていた。
それはつまり、少しの間りっくんを家に一人きりにさせてしまうということだ。肝心なことのはずなのに、どうして考えがそこに至らなかったのか。普段の私なら絶対にあり得ない。やっぱり色恋沙汰というものは人を狂わせてしまうのだろうか。
りっくん、ごめんなさい。本当にごめんなさい。と心の中で懺悔していたら、実際先に謝ってくれたのは新のほうだった。
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