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けれどりっくんはまた少し考えたのち、新たな疑問を口にした。
「でも、前はちさ姉ちゃんが食べてくれたよね。どうして僕に食べさせようとしなかったの?どうしてゆうこ先生みたいに怒らなかったの?」
どうやら家でシチューを食べた時の件を言っているらしい。
あの時は確かに、「もう、しょうがないなぁ」と、すんなりりっくんのお皿を引き受けた。要するにりっくんは矛盾を指摘しているのだ。シチューを食べたのなんて何ヶ月も前のことなのにな。りっくん、記憶力も良い。
私もまた少し考えて、言った。
「あの時はね、りっくんに大きくなってほしいっていう気持ちより、りっくんに辛い思いをしてほしくないっていう優しさのほうが勝っちゃったのかもしれない。りっくんには美味しくごはんを食べてほしいなって。ほうれん草のせいで、シチューのことまで嫌いになっちゃったら、ちさ姉ちゃん悲しいなって。でもね、本当に正しいのはゆうこ先生だよ。ゆうこ先生は、今の六歳のりっくんだけじゃなくて、七歳、八歳…もっともっと先のりっくんのことも見てるの。ゆうこ先生、怒ると怖いのかもしれないけど、誰よりもりっくんの成長を願ってるんだよ」
黒目がちの瞳をぱちぱちと瞬かせながら、りっくんは私の言葉を頑張って咀嚼しているようだった。ちょっと一息に喋りすぎてしまっただろうか。
「…そっか」
りっくんはぽつりと一言呟いてから、表情にぐっと力を込めた。何かを決意したような顔つきだった。そして宣言した。
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