ペンだこ

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「おわったー」 京子は安堵のため息をつきながらいすの背にもたれかかった。 「お疲れ様。やっぱりパソコンを使う方がいいんじゃない?慣れれば執筆も早くなるし、手も疲れにくくなると思うよ」 夫の孝だ。京子の右手は鉛筆の汚れでまっ黒になっており、中指には絆創膏が貼られている。 「うーん、考えてはいるんだけどね。やっぱり手書きの方が集中できるの。出版社に渡すにしても、紙よりデータの方がずっと手間がかからないと思うんだけど」 京子は少しうき上がった絆創膏を左手でおさえつけながら答えた。予想通りの答えだったため、孝もそれ以上は勧めなかった。 「そっか。…もう6時だね。今日はこれから出かけるんだったね」 「ええ、小学校の頃の同窓会よ。Aホテルで6時開始だから、少し遅刻だけどね」 京子は嬉しそうに微笑んだ。孝はそれを見ておや、と思った。京子が本の話以外でそういう表情を見せるのは珍しい。 「そっか。懐かしいでしょ。楽しんできてね」 「ありがとう。また帰るときメールするね」 京子は急いで出かける準備をし、大通りのバス停に向かった。Aホテルまではバス1本で行ける。20分ほどだ。タイミング良くやってきたバスの座席に座り、やっとひと息つくことができた。 (みんなどうしてるかな) ペットボトルのお茶を飲んでのどを潤しながら、京子は自分が小説を書き始めた頃のことを思い返していた。
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